「市立盲特別支援学校で、学習用人体模型の着色が間に合わないため、ボランティアを募集している」
細かい記載は不明だが、おおよそこんな内容だった。地下鉄に乗って何気なく目にした電光掲示板の記事である。
よくわからない。
まず、人体模型の色付けとは何だろう?人体模型はメーカーで色付けされて学校に届くのではないのか?それとも透明のアクリルの状態で梱包されてくるのか?あるいは学校で人体模型を作っているのか?
次に、盲学校で着色というところに少し違和感。まあ全盲の子どもばかりでないだろう。他の障害の子どももいるだろうから、着色は必要だろう。ただ、文面から直感的に想像すると、アレっと感じた。
最後の疑問は、ボランティアとは何をするのだということだ。私の脳裏に浮かんだのはピンクや赤の絵筆を持って横たわる人体に向かう姿だ。そもそも大量生産しているわけでもあるまいし、間に合わないというのはどういうことだろう。
その後本屋で物色。山岳雑誌を何冊か眺める。『ROCK & SNOW』を開けてみるとワイドクラックを特集していた。
クラックとは溝のことである。クライミングというと一般的には色とりどりの突起を掴んで登るものと見られているが、本物の岩場であんなドアノブみたいなものはなかなかない。特に長いルートになると都合よく掴める突起などなかなか見つからない。そこで、クライマーは岩にできた割れ目に手足を入れて登ることになる。
クラックを登るのは難しい。クラッククライミングの経験のない私にそれを語る資格はないが、ちょっと試すだけでもわかる。手のひらと甲で体全体を支えるのだ。本来手の甲はこういう使い方をするものではない。神の摂理に反する身体の使い方をして登る。
しかも、クラックは手に合うサイズとは限らない。体がすっぽり入るサイズもある。クライマーというのは本能に最も従順な生き物だから、岩があれば登り、クラックがあれば手足、腕、身体全体をかまわずに突っ込むのである。
今回の特集は身体をも入るワイドクラックである。掲載されている写真を見ると、登山を知らない人は(いや知っている人でも)意味不明な画となっている。岩に人が挟まっている。本当にそれだけだ。これが趣味ですと言うとどうかしていると思う人もいるだろう。
おそらく日本にワイドクラックを愛好する人はおそらく30人もいないのではないだろうか(そのうち10人くらいは本特集に掲載されている)。
これくらいニッチな分野を特集する『ROCK & SNOW』に拍手。
ROCK&SNOW 080「アレックス・オノルドが日本にやって来た! 」「ワイド・クラックの世界」「追悼 ジム・ブリッドウェル」「ボルダリング ワールドカップ開幕」 (別冊山と溪谷)
- 作者: ROCK&SNOW編集部
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2018/06/06
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