クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

社内報写真家

社内報の表紙に時々写真を提供している。これはひとえに私の写真家としての腕を買われて名誉特派員の栄誉に浴している、というわけではなく、広報担当が適当な写真を持ち合わせていない時に無料の写真提供人として利用されているだけに過ぎない。

昨今は簡単にきれいな写真を撮ってSNSなどに公開できる分、制限もいろいろ難しくなっている。肖像権があるので本人の許可なく人は撮ってはならない。家やら町並みは路上等から普通に見える範囲なら撮影しても法的に問題ないそうだが、下手に撮っていると盗撮か何かと勘違いされる。草花も誰かの所有物である可能性がある。こうなると撮ることができるのは自分自身か自分の所有物か観光地に行って「ご自由にお撮りください」と書いてあるもの、あとは山や海、月や太陽といったものに限られてくる。自由に使える写真を持っている都合のいい輩が近くにいれば依頼したくなるのは無理からぬ話かもしれない。そういうことで今回も表紙の候補として10枚ほど提供した。

 

これまで社内報の表紙には5枚ほど採用されたことがある。

全ては広報担当の趣味嗜好によっているわけだが、直近採用されたのは1年前である。

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秋号の写真ということで紅葉の写真を中心にこの時も10枚ほど候補として提供して、これが選ばれた。撮影場所は立山雷鳥沢近辺である。この時は富山駅から上市駅まで電車、そこから馬場島へタクシーで行き、早月尾根を登って剱岳を極めるという山行だった。写真は剱岳から下山し、剱沢にテント泊をした翌日に室堂まで下りる途中で撮影した。時期は9月の秋分の日で、室堂付近も紅葉が始める時期だった。前日の緊張感も解け、下山を惜しみつつ何気なく撮った一枚である。

採用は光栄だがちょっと恨み言を言うと、撮影した場所は室堂から30分ほどで行ける雷鳥沢であり、室堂から雷鳥沢は遊歩道によってほぼ整備されている。つまり私のように剱岳を経由せずとも、そして登山者でなくともこの場所には行くことができる。剱岳のカッコイイ姿とかいっぱいあったのだが、そちらはお気に召さなかったようだ。

ちなみに後姿の人はたまたま写ってしまったのだが、社内報でトリミングしたものには入っていない。

 

遡って最初に採用された写真はこれだ。

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これは山頂から撮影した。雲海が見える通り撮影場所は高峰である。山に行かねば撮影できない写真。まさに山岳写真だ。

これを撮影した場所は富士山だ。初めて富士山に行ったときは仰天した。人の多さにだ。みんなご来光目当てなので深夜に登る。当然みんな日の出までは下山しないのだから山頂にはだんだん人が増えていく。日の出直前は混雑のピークで、迂闊にトイレに立とうものなら、戻ってきて座る場所にも難儀する。

人の渦の中でなんとか座る場所を確保し、寒さに耐えてひたすら日の出を待って撮った一枚だ。こう言うと写真家冥利に尽きそうだが、おそらく何千人かが富士山の山頂で同じ景色を見ていたわけで、別に私でなくても撮影できた写真であることは間違いない。

 

他にも道路から撮影した伊豆半島の砂浜の写真とかも採用されたが、これはドライブにでも行けば誰でも撮れる。しかも「夏っぽい写真」というリクエストだったが、撮影したのは5月だったりする。

なにより、先の富士山も海岸写真も安物のコンデジで撮影したものだ。晴れていれば別に何で撮っても同じことだが、気合が入っていない時に撮影されたものほど採用されるのはどういうことだろう。

 

最後は少し気合を入れた写真を紹介しよう。

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これは南アルプス鳳凰三山からの写真である。左に見える岩峰は三山の一つ、薬師岳で、奥に見えるのは言うまでもなく富士山だ。

これはわりと気に入っている写真だ。9月の無雪期山行なので何ら珍しくもないし、天気も良かったので人でも多かった。これも私でなくとも撮ることのできる一枚だが、均整の取れた構図になったので私としては上出来である。これまで母親に「センスがない」とけちょんけちょんに言われていたのでわずかながら汚名を返上できた。

ただ、この写真には不満はないのだが社内報の写真としては不満がある。これは新年号に採用された。新年だから一富士、二鷹、三茄子なのはわかるが思いっきり夏の写真だ。美しい写真として評価されたのはありがたいが、新年らしい銀白の山嶺は落選しておりやや複雑な気分だ。まあ落選と言っても当選するも落選するのも私の写真に過ぎないわけだが、こちらの季節配慮のチョイスは受け入れられなかったようだ。

 

そんなこんなで今回は秋らしい写真と単にきれいだった日の出や花の写真を渡した。たまにトリミングの関係などにより、一度採用されても途中で却下となることもある。上部にタイトルが入るので、タイトル文字が見えにくい写真は有無を言わせず却下だ。

社内報写真家は所詮は無料の写真提供媒体なので、撮影者の思いは全く顧慮されていないのが悩み事である。しかしそれと同時に自分が気づかない名作を見つけてくれるのではないかという淡い期待を寄せているのもまた事実なのだ。