クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

北海道自転車放浪記-7

北海道らしい景色と言えば広大な牧場や地平線まで伸びる大地、緑の草原を自由に疾駆する馬。知床までを往路とすれば知床以降は復路となる。折り返しを迎えて最後には北海道らしい景色に出会いたかった。

知床からは海岸線を中標津まで進み、道東の内陸部を通って帯広を目指す。『ツーリングマップル』を見て北海道らしい景色を探した。地図の記載によると多和平は360度地平線が眺められる大牧場だという。前半で美瑛や富良野といった北海道の定番スポットをパスしたので、北海道を堪能するにはここしかないと思った。

 

中標津から内陸に入ると直線的な道路が増えた。時折背後から通過する車はどれも猛スピードで怖いが交通量は少ない。

自衛隊の車両が隊列をなして追い越して行く。さすがに「国営」だけあって制限速度順守で通り過ぎていく。遅いので顔の表情が見えるくらいだ。しかし、みんな前をキッと向いたまま表情を変えない。汚いシャツを着て自転車を漕ぐこちらと茶色の制服で身を固めた彼らに大きな隔たりを感じた。任務の間は表情を緩めてはならないという規則があるのだろうか。平和を謳歌する若者への軽蔑だろうか。

車列は始まってから10分以上かかって最後の車両が私を追い抜いて行った。最後の車両に乗車していた1人だけが私に手を振り、私もそれに気づいて慌てて手を挙げた。

 

多和平に行く前に食事をした。

自転車を長時間漕ぐと腹が減る。登山やマラソンのような有酸素運動もそれなりに腹は減るのだが、自転車は一番だと思う。朝6時に朝食を食べてスタートすると9時には第2の朝食、12時に昼食となり、3時間おきに食事を摂ることになる。バイクがガソリンを食うように人が燃料を食うのが自転車だ。

ツーリングマップル』に載っていた「やまや」という洋食屋に入った。地図に「ボリューム満点」と書いている「やまやスペシャル」なるものを頼む。時刻は2時過ぎでカニ飯の時と同様にほとんど客はいない。のんびりと水を飲みながら空腹をやり過ごした。

出てきたのは唐揚げ、スパゲティー、目玉焼き、チキンライスをこれでもかという具合に1枚の皿に乗っけた料理とも言えない料理。味はそれぞれまあまあなのだが、とにかく量が多い。

北海道には腹ペコ自転車族のために大盛りの料理を出す店がいくつもある。私は行っていないが、道北の方のラーメン屋には「チャリダー麺」というメニューを出す店があって、30cmくらいの高さになるラーメンを出すらしい*1。丼に高く聳えるのは大量のもやしで、客はそれを上からワシワシと食していく。その下の麺も3玉くらいはあるらしい。これより小さいのは「ライダー麺」でそれでもなかなかクレイジーな量だと言う。

この「やまやスペシャル」もどうだこのヤロ的な北海道ならではのスケール感のメニューではあったが、途中からはわざわざ北海道に来てまで食べる内容でもないと感じるようになり、最後はチャリダー(北海道では自転車ツーリストをチャリダーという)の意地で完食した。

 

多和平は小高い丘のキャンプ場だった。

1日汗をかいたのに風呂がないのは誤算で、タオルで身体をふくが少々気持ち悪い。「やまやスペシャル」のおかげで胸焼けがして夕食は食べる気がせず、テントの前で何をするでもなくぼんやりとしていた。多和平は丘の上なので、機動力のあるバイクの人は多かったが、自転車の人は見かけない。バイクの人も集団で来ている人が多く、私は独りぽつねんとしていた。

やがて日が丘の向こうに下りて行った。逆光の丘を眺めていると数頭の馬が反対の坂を登ってきた。やがて馬たちの影が丘の上で踊り始めた。少しずつ陽の光が力を弱めていくと、馬たちは舞踊を止めてどこかに立ち去って行った。

*1:後に閉店したと聞いた