クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

'90アメリカ滞在記・7歳の見た異国ー日本とは

「どこから来たの?中国?日本?」

「日本です」

「へー!船で来たの?」

これはアメリカに行った当初、母親が英会話教室で言われた言葉である。母親曰く「ちょっとした偏見を感じた」そうな。

そらそうだ。咸臨丸じゃあるまし。

 

当時アメリカの子ども達に人気だったのは”NINJA TURTLES “で、私も毎週テレビで見ていた。今でも主題歌を諳んじることはできるものの、ストーリーはなんとなくしか理解していない。

世界制服を企む悪の集団がいて、敵対する武術の達人(日本人)は特殊な薬品で鼠人間に変えられてしまう。ところがその薬品を浴びた亀が亀人間となり、武術の達人から手ほどきを受け、悪の集団との闘いを繰り広げる。

大まかにはそんなストーリーだ。

Turtles たちにはなぜかルネサンス期の画家の名前が付き、途中で出てくる鼠人間の友人は”Usagi”。Turtles たちの好物はsushi ではなくアメリカ人の大好きpizza で、それぞれ得意とする武器はレオナルドが両刀、ドナルドは杖術ミケランジェロはヌンチャク、ラファエロは2本の小刀。日本古来の武器であることすら怪しいものばかりだ。

私はNinjaの本場から来た人間なのだが、それを学校の友達に伝えようにもうまく伝わらない。そもそも忍者は隠密裏に任務を遂行するわけだが、アメコミの主人公よろしく正々堂々と悪と向き合い、格闘し、大爆発を起こす。どうしても"NINJA TURTLES"をもって日本のスパイである忍者を説明しづらい。

母親が、家に来た友達(アメリカ人)に「Ninjaは日本から来たんだよ」と言ったものの、彼は怪訝な顔をしていた。

 

アメリカでは父親がよくテレビでプロレスを見ていた。もちろん日本にもプロレスはあるが、日本のそれとは少し違う。私はあまり見ていない(というか母親が見るのを嫌っていた)が、むこうのプロレスは強い人間が賛美される。

時々小柄な東洋人レスラーが登場しても観客はどこ吹く風で、ヒーロー役の背が高く、上半身が逆三角形の白人レスラーがボカボカ叩くともう大盛り上がりとなる。東洋人レスラーはもっぱらやられ役で、最初だけ小さな身体で大きなレスラーを持ち上げて観客を感心させた後は大きな白人レスラーの餌食となるだけだった。

父親曰く「日本では『柔よく剛を制す』とか言って小柄な人間が頑張るだけで盛り上がるけど、こっちは違うんだなぁ」。

さて、東洋人レスラーもヒールとして登場するわけだが、これがまた日本人なのか、韓国人なのか、中国人なのかもわからない国籍不明人である。もしかしたら解説が言っているかもしれないのだが、少なくとも観客は何人だろうと関係ないのだろう。

 

アメリカは多国籍国家だと言うが、アメリカ人というのは日本以上に閉鎖的だなと思うことがよくあった。学校でもアメリカの州の名前を覚える歌はあったものの、他国の名称を覚えること、どこの国はどういう人種が多くてどんなcultureなのかなのかということにはあまり触れなかった気がする。会話は当然英語で、先生は特に他の国から来た子どもを差別もしないが、特段興味も持たない。

テレビで日本を紹介する番組をみたこともあるが、冒頭で「日本列島はまるで竜が横たわったような形です」という解説があり、よくできた例えだなと感心する一方で、「竜は日本じゃなく中国の仮想生物だろう」という気もした(当時はそこまで思わなかったが、それでも日本=竜には違和感を感じていた)。

結局、アメリカで感じた「日本」とは何だったか。それはアメリカ人は日本など歯牙にもかけていないということだった。