クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

正月と年配者の喧嘩自慢

正月は相方の実家で過ごした。

90になる祖父がいる。コロナの時期に何事という意見もあろうけど、昨年8月に祖母が亡くなっているので元気づけるという意味合い強い。

実際、元気によく話してくれてよかった。

 

年配者がいる場では昔話を謹聴しなくてはならない。こういうことはわりと好きなので、義理の祖父には存分に話してもらった。

話は昔の喧嘩自慢である。

祖父が総務部の次長だったころ、信託会社から入ってきた部長が上司だった。その部長という人物は上に弱く下に強いという典型的な嫌な人物で、日々ねちねちと部下を苛めていた。

上司なので、黙って見ていた祖父だが、ある月曜の朝、とうとう堪忍袋の緒が切れた。

週明けの朝礼から部下を責め立てる部長を見て、祖父は

「月曜の朝からそう言わんでもいいでしょう」

とたしなめると、上司は「何を言う!」と逆に怒り出した。

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一休さんに出てきそうな虎の屏風、祖父は虎という風情である

ここで今までの鬱憤が破裂する。横で部下を苛めているのにイライラしていたのだ。

江戸っ子で口が達者な祖父だが手が先に出て、気が付いたら部長は後ろに吹っ飛んでいた。

 

社内で暴力を振るうのは今も昔もご法度である。

祖父はその日は仕事にならないと帰り、翌日は通常どおり出社して処分を待った。

ところが意外なことが起きる。

「いやぁ。よく殴ってくれた」

と陰で感謝する人が現れたのだ。

殴った部長という人は部下だけでなく、営業や他部署の人間にまでうるさく言っていて、相当評判が悪かったらしい。信託会社出身で数字に強いので誰も反論ができず、上には取り入っていたので、諫める人もいなかった。

そういった中でのゲンコツは社内の快事となっていた。

そうなると会社も厳罰は難しくなる。それどころか周囲で評判が高くなり、結局は不問に付するとなった。

 

なんとも長閑な時代である。

コンプライアンス、ルール遵守の建前が前面に押し出る現代にあって、正月に昔の喧嘩自慢を聞くのもなかなか面白い。

2021年、ガチガチのルールだけの世界にはなってほしくない。