クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

緑と雨の彷徨~屋久島放浪記③

屋久島の森は「もののけ姫の森」などと言われることがある。なるほど「もののけ姫」に登場した精密な緑の描写は屋久島と言えば頷ける。

しかし、まあ映画を見るとずいぶん穏やかな気候だ。雨なんか全然降らない。

実際の屋久島は「月に35日雨が降る」の言葉通り常に雨に濡れている。

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3日目。新高塚小屋を出た我々は、濡れた靴に足を入れて白谷雲水峡を目指した。

雨はまだ降っていたものの、小屋から下は雪がかなり少ない。高塚小屋を越え、縄文杉のあたりはほぼ無雪期と変わらなかった。違いは人がいないことか。大観光地、世界遺産とは思えないくらい人気がない。

考えてみれば縄文杉は立っている時間のほとんどを独りで過ごしている。人がわいわいと押し寄せたのはここ20年くらいだろう。

8000年とも言われる年月立ち尽くすというのはどういうことか。私は小学校の国語の教科書で縄文杉の存在を知った時、言い知れぬ恐怖に襲われた。自分が生まれ変わって縄文杉になったら、どういう思いにとらわれるだろうと。

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雨にかすむ縄文杉

霧雨が降り注ぎ、次には日が差す。濡れては乾き、乾いては濡れる。

縄文杉から白谷雲水峡の道はかなり整備されている。踏み荒らさないように木道と階段が敷かれていて、もはや登山という気はしなくなっている。

ただ、痛めた右手首と濡れて凍傷気味になった指先が屋久島の自然を思い起こしてくれる。人も木も厳しい環境は同じ。

過酷な環境が千年を超す大樹を生み出しているのだろう。

 

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白谷雲水峡の滝

大荷物を背負って下山してくると、何人かに「頂上はどうだった?」と訊かれた。

頂上付近にはほぼ足跡がないところを見ると、我々以外はここ2日くらい登っていないらしい。人跡未踏では全くなくても、人がいないところを歩けたのはよかった。

もはや手の痛みを少し忘れて縄文杉より下の手垢の付いた道だけでなく、屋久島の自然そのものを堪能したという気になっていた。

 

 白谷雲水峡にはゲートがあり、井之頭動物園の正門みたいに環境協力金の支払い所がある。

そこに下りると窓口のおじさんから「バスならもうないよ」と言われた。