梅雨に入って梅雨らしい天気が続いている。
年間降水量は例年、10月の台風シーズンの方が多いようだ。しかし、熱海で土砂崩れがあったように、ここのところ例年がどんな感じかわからない状態が続いていて、降ってみないとわからんことになっている。
そんな梅雨時に読みたい山の本を紹介したい。
①伊藤正一『黒部の山賊』
もともとは伊藤正一さんが経営する三俣山荘や雲ノ平小屋で売られていた本だそうだ。
北アルプスの最奥にあるこれらの山小屋の創業についての物語なのだが、戦後手つかずの山中の雰囲気が漂ってなんともいい。
北アルプスには「山賊」と呼ばれた猟師たちがいて、熊を追い、岩魚を釣って暮らしていた。まだ山には河童やカワウソ、カモシカなどが共存していた時代である。筆者の伊藤正一さんは技術者であり、決して荒唐無稽なフィクションを好んで書くような感じはしないのだが、それでも説明のつかない出来事を軽いタッチで描いている。
読むと山という異世界に迷い込む感じがして梅雨時にはちょうどよい。
②沢木耕太郎『凍』
登山家・山野井泰史、妙子夫妻のギャチュンカン北壁登攀を中心としたノンフィクション。
私は今はなき品川駅のBOOK EXPRESSで買った記憶がある。その時、書店員の紹介では「夫婦の絆」というようなことが書いてあった記憶があるのだが、そんな話ではない。彼ら夫婦は山において互いを対等なパートナーとしてみなしている。
ストーリーはギャチュンカン登山と中心に進むが、山野井夫婦の生い立ちが随所に散らばっている。山に登らない、クライマーではない人でもなぜ命のかかった登山をするのか、丁寧に書かれている。とはいえ、その書店員はよくわからなくなって「夫婦の絆」という解説を付けてしまったのではないだろうか。
読み方はそれぞれだが、生きることへの自由、死ぬことへの自由というところが登山には重要なんだろうと思ったりする。
この本のどこが梅雨時向けかと言えば、とんでもなく寒そうだからだ。冬に読むと余計に寒いので、外の雨を眺めながら少し涼しい気分を味わってはいかがだろうか。