クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

どんな人が荒野に憧れるのか~伊藤精一『俺のアラスカ』を読む

伊藤精一『俺のアラスカ』を読んだ。

少し前に服部文祥『You are what you read』に出てきて気になった本だ。伊藤精一さんというのはアラスカ在住の猟師。野田知佑さんのエッセイに登場していて、名前だけは知っていた。

簡単に書くと、若い頃は暴走族、長じてオートレーサーになり、その道を断念してアラスカで生きる道を選んだという人である。とにかくヒリヒリした生きる感覚を求め続けた結果がアラスカだったようだ。

ジョン・クラカワー『荒野へ』を読んだら、アラスカにはこの手の「生きる刺激」を求める人が数多く集まるらしい。

伊藤さんの話の中には『荒野へ』の作中にも出てくる、石器時代のような生活をしていた人が登場する。一切の文明を拒否し、石器で狩りをしながら10年も孤独に過ごした男がいた。自分の力だけで生きることにこだわり、独りで生き続け、もう満足と思ったのか、あるいは絶望したのか、最後は石器で自らの喉を切り裂いてしまう。

『荒野へ』の主人公はクラカワーの本や映画でもう少し美しく描かれているが、やはり似たような人生だと言える。

自分の人生を自分でデザインしたいという願望は誰しもが持っている。

しかし、どこかで諦める瞬間が出てきてしまう。親の教育、自分の能力への不信、周囲の声。それらに煩わされないためには人は荒野に向かうしかないだろう。

この世に自分しかいないと感じる瞬間、人は最も輝けるのかもしれない。