クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

最近読んだ本2つ~宮崎市定『科挙』・沢木耕太郎『イルカと墜落』

最近、天候不順で梅雨時期並みに出かけにくい。特に山間は何かと豪雨というので困ってしまう。仕方ないので自宅でスクワットをしながら本を読む日々が続いている。

そんな中で最近読んだ本3つのご紹介。

宮崎市定科挙

前にも書いた気がする。改めて図書館で借りて読んだら面白い。

隋の文帝の時代だから、日本で蘇我氏物部氏が争っていたような時期に氏族を超えた登用試験が始まっていた。

試験もこれくらい歴史があると面白エピソードがたくさん出る。ヤマを張る受験者に対して外そうとする出題人。カンニングと不正受験。

不正防止の方法がすごい。筆跡で受験者を特定できないように別の人間が筆写し、採点は複数人で行う。しかも、採点官は墨の色を変えて責任の所在をはっきりしておく。

マークシートの試験じゃないし、回答も1週間かけて行う内容だから、猛烈に手間だが、これが1000年以上続くというところが凄まじい。

今、アメリカと中国が大国となっているのが歴史を見るとよくわかる。片や移民がゼロから国を作ったらどうなるかという実験国。もう一方は、大民族と少数民族が交互に国を塗り替えればどうなるかという伝統国。

前にも書いたけど、あとがきの宮崎市定の慧眼だけでも読む価値がある。

yachanman.hatenablog.com

沢木耕太郎『イルカと墜落』

一転して話はアマゾンである。

沢木耕太郎アマゾン川流域、熱帯雨林に住む原住民族の保護にあたる人物にインタビューするというのがテーマ。メインはNHKのロケとして行われたそれなのだが、ノンフィクションは前半をインタビューに至るまでのアプローチ。後半は2度目の訪問と飛行機事故がメインとなっている。

沢木耕太郎のノンフィクションは「〇〇の真実」みたいに過去を後追いするだけのものでなく、現在の時間が流れているのを実感させてくれる。そして現在の筆者の目を借りて読者は出来事をのぞき込む形になっている。

この本では前半は映画『地獄の黙示録』をイメージしながら原住民保護にあたる人物を訪問し、その先入観が解けていくというストーリーが、後半は不吉な予感と飛行機の墜落を過度に感情的にならず描かれている。

 

科挙という悠久のシステムと一瞬で命を失うかもしれない墜落。

全く別の本なのだけど、立て続けに読む本というのはいろいろな化学反応を自分の中に起こすものらしい。