クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

子どもの葛藤と野田知佑さんの言葉

週末、カヌーを見に行って思い出したことを書き留めておこう。

山ばかりに行っていた私がカヌーに興味を持ったのは野田知佑さんの本を読んだからだ。ぜひとも本人にもお会いしたいと思ったが、叶うことはなかった。代わりに相方をけしかけたところ、相方は野田さんの主催する「川の学校」にスタッフとして参加した。2018年の夏だ。

川の学校は子どもを川で遊ばせ、自然の楽しさを教えるという学校である。教えると言っても何より尊重するのは子どもを自由にすることで、昼寝をしていても夜更かししても構わない。

河原で本を読む子もいて、何を読んでいるかと見たら谷崎潤一郎の『刺青』だったなんていうこともあるらしい。その小学生の女の子は「谷崎はねぇ、エロいんだよ」などと言っていたとのこと。

この学校に来れる子は本当に恵まれている。少なくとも親が子どもに愛情を注いでいるし、金銭的にも余裕がなければできない。

それでも子どもの方もいろいろあるようだ。

ある夜、相方が子どもと焚き火の前で話していた。その小学生の子は学校での悩みをポツポツと語った。学校では子どもに「マジメにやれ」と教える。マジメにやれば必ず報いられると説く。

しかし、子どもの方はその欺瞞に気づいている。マジメとは所詮、教員にとって都合の良い方に誘導しているだけだと。

相方はふと思い出して

「私ね。野田さんの本で印象に残っているのが『マジメに生きるって大変なことだ』ってあったことなの」

とその子に話した。その言葉は『旅へ』という野田さんの青春記にある。

自分の生き方を探して葛藤する野田さんに周囲は「早く就職してマジメになれ」と言う。それに対して「ばかめ。マジメに生きたいと思っているから就職せずに頑張っているんじゃないか。不真面目ならどこかで妥協して適当に就職している」と憤る場面だ。

すると、今まで座ったまま眠っていたと思われていた野田さんが急に眼を開け、

「そうだよ!マジメに生きるって大変なんだ」

と言い放った。

何も考えずに流されながら生きるのは簡単だ。しかし、それでは自分が何のために生きているのかわからない。その葛藤にぶつかった子どもに野田さんの言葉は響いただろうか。

相方はマジメに生きるためこの1年後に念願だったカナダ留学へ出かけている。