クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

エベレストをDVDで観た

外出自粛の上に大雪が降ったので、部屋でDVD鑑賞とすることにした。映画は「エベレスト」である。

エベレスト (字幕版)

エベレスト (字幕版)

  • 発売日: 2016/02/19
  • メディア: Prime Video
 

 Lenovoのノートパソコンにドライブを繋いで見ようとしたら、まるで読み込まない。ディスクは勢いよく回転しているのに一向に再生せず、念力を込めてもまるでダメである。そのうち、キュイーンと子犬の鳴き声のような音がして停止してしまった。DVDの不備の可能性もあるので、違うディスクを入れてみたものの、結果は同じ。どうやらパソコン側に問題があるらしいことがわかったので、結局DVDを見るために外出するという本末転倒の結果になってしまった。

外は牡丹雪が舞い散り、人通りは少ない。とにかくパパッと行ってササっと帰った。上下着たレインウェアはビチャビチャだ。

 

さて「エベレスト」である。これは劇場で見たので、おおよそストーリーは覚えているし、今ジョン・クラカワーの"INTO THIN AIR"を読んでいるので新鮮さはない。

舞台は1996年のヒマラヤ。かつて冒険家たちの憧れだったエベレストに商業登山隊がはいりこみ、世界一のテーマパークに変わりつつあった。当然、世界一の標高と低酸素には違いないのだが、ベースキャンプには音楽が鳴り響き、夜は酒を飲んでのダンスパーティー。命を懸けた挑戦といった悲壮感はない。

しかし、明るい雰囲気の一方で下界にあるようなコミュニティとしての問題が相次いで勃発する。一本道での渋滞で、長時間高所にとどまる危険性が高まったり、転倒による巻き込み事故が起きたり。

人が多くなればトラブルが増えるのは山も街も同じなのだ。


ストーリーはロブ・ホールというクライマーの主催する商業登山隊を中心に進む。吉日とされる5月10日の登頂を目指してベースキャンプは動き出すが、天候は微妙という状況になる。それでも悪天候の間隙を縫って登山隊は動き出すのだが、突如として荒天が襲いかかる。下山の遅れた登山者たちはルートを見失ったり、体力を失って倒れこむ。最新の装備、情報を完備しているはずの登山隊もエベレストの天候の前には無力だった。

中心となるロブ・ホールは妊娠している妻を残し、ヒマラヤに来ていた。彼は下山中、どうしても頂上に立ちたいという登山者を誘って再び頂上に立つが、そのため下山が大幅に遅れ、難所ヒラリーステップの近辺で妻と会話しながら力尽きる。

否応なく感情移入してしまうシーンで、芯から山は怖いと感じた。低酸素という状況を除けば、日本の雪山でもありそうな場面だらけなので、余計にリアリティを感じる。実際にはヒマラヤではなくアルプスの4000mくらいで撮影したそうなので、そう思えるのかもしれないが。


この映画を劇場で見た直後に私は友人たちと西穂高岳に向かった。

もうすぐ子どもが生まれるという彼はGoProで自撮りしながらこう言った。

「パパだよー!」

とっさに映画のシーンが蘇る。

「こういうこと言う奴が一番先に死ぬんですよねぇ」

思わず吹き出してしまった。

「最近そんな映画を見たばかりなんですよ」

この時は12月の雪山登山で、嫌なトラバースがあったものの、滞りなく登り、西穂山荘でラーメンを食べ、松本で風呂に入って文句のない登山ができた。

映画の中で、ジョン・クラカワーが登山者たちにしつこく訊くシーンがある。

「なぜ山に登るんだ?」

うーむ。なぜだろう。怖いことを忘れるからだろうか。怖いもの見たさだろうか。

しかし怖くないと登らないというのも別な真理だろう。

雁ヶ腹摺山の道迷い登山について

先週、雁ヶ腹摺山に富士山を眺めに行った。旧500円札の富士山はその頂上から撮影されたらしく、「秀麗富嶽十二景」で1番という番号が振られている。

中央線の立川駅で落ち合った我々は7時少し前に大月駅に降り立った。ここからバスに30分弱乗り、ハマイバというところまで移動。大峠まで林道を辿り、そこから一般登山道に入った。

快晴。雁ヶ腹摺山頂上からは大きな500円札富士山が見える。

f:id:yachanman:20200328162105j:plain

500円札富士

 

今回は多いに油断していた。雪のほとんどない低山でそれほど寒くもない。風は少々強いものの雲は見えない。

雁腹からは大月駅に向けて稜線を南下するつもりだった。雪が吹き溜まったやや急な階段を下ると、強い風に吹かれて少しふらつく。寒くなってきたので足早に進むと樹林帯に「大峰」という標識があり、2人で地図を見直した。よく見ると当初の南下するラインではなく東進していたらしい。頂上で1つしかないと見ていたルートだったが、違う方向に来てしまったようだ。

 

山の鉄則がある。

「迷ったら引き返す」

下る方が迷いやすいからで、頂上や稜線ならルートに復帰できる可能性が高い。下る際に沢沿いに出ると滑落の恐れもある。

 雁腹から予定外の道に入った私たちは一般登山道から破線ルートを辿ることになった。一応は登山道なので、テープやビニール紐の目印がある。風は進むにつれて弱くなった。山専ボトルをバックパックから取り出し、それぞれカップラーメンとアルファ米のドライカレーを食べた。

破線ルートに入った当初の緊張感は次第に薄れ、再び私たちは山談義をしながら下って行った。途中、泣坂ノ頭というところに差し掛かる。そこから稜線を巻くような踏み跡があるので、迷わず下ると崩れた斜面が出てきた。崩れた斜面というのはある意味で険しい岩場より難しい。岩が砕ける可能性は低いが、土はもともと岩が崩れたものなので、崩れるべきものなのだ。

 崩れたトラバース斜面を渡る。片足を置くとバラバラと石ころや砂が崩れ落ちていった。慎重に四つん這いになって移動する。

「落ちたらミミズ腫れやなぁ」

後ろから友人の声が聞こえた。「ミミズ腫れ」なんて久しぶりに聞いた。確かにここから落ちたら擦過傷くらいで死にはしないだろう。ただ、のんびりとした調子で話されると(その友人の話し方はどことなくのんびりしている)、ひょっとしてルートを逸れている気もするが、なんとでもなる気がしてくる。

危ういトラバースを4、5度繰り返すと尾根が2つに分岐した場所に出た。右は藪に覆われ、左は急坂になっている。ルートがわからなくなった。

f:id:yachanman:20200328162438j:plain

ミミズ腫れトラバース


 

 

「あっ、繋がった!」

後ろから声がした。友人はスマホを手にしている。覗き込むと現在地が三角で示されていた。山地図のGPSがようやく機能したのだ。

「結構下りたなぁ」

よく見ると最初に辿っていた稜線から200mばかり下っていて、この下は沢のようだった。どう見ても踏み跡やテープが所々あったのは沢登りの人が付けたのかもしれない。

「沢筋から下りて林道に出れるかもしれんけど」

正直な話、沢下りは沢登りより怖い。沢はそもそも水の勢いで崩れた地形そのもので、道迷い遭難の最後は沢で滑落というケースが多いのもそのためだ。しかも私たちは舐めたハイキング気分で来ているので、ロープなんかも持ってはいない。

結局相談の結果、稜線に登り返すことにした。それにしてもGPSに救われるとは山屋として不本意である。というかベラベラしゃべっているのが悪かったのか。とにかく引き返さないという判断は誤りだったし、それによって面白い体験ができた。まあ最後は引き返したのだが。

 

稜線に登り返し、今度は水無山というところを目指した。

今度こそ迷わないように慎重に稜線を辿る。結局は高くなった稜線を忠実に辿るのが一番確実だ。水無山の標識は発見できなかった。ただ最後はGPSが山頂付近を指したところで下降路を探し、麓の集落まで続く尾根を下りた。

 翌週、LINEでその友人とやり取りをしたら、「楽しかった」ということだった。確かに楽しかった。道迷いで楽しいなんて登山者失格だろうか。ガチガチの安全登山が推奨される中で楽しみ方に自由がないと登山は面白くない気もする。

登山ファッションショー

日帰りで山梨の雁ヶ腹摺山に行ってきた。

軽い山歩きのつもりがわりとハードな登山になってしまったのだが、それはまた別に書きたい。なぜハードになってしまったかは明らかで、一緒に行った女性の友人と2人で話に夢中になってルートを間違えたからである。

その友人は今のところ、登山・沢登り・マラソン・旅行・美味しいご飯とスイーツが人生の大半を占めており、私も大いに肯ずるところだ。そうなると普通の女子が好きなファッションについての話題も山ウェアが中心となっていて、経済力の範囲でどれがファッショナブルかつ機能的なウェアかについてしゃべりながら歩いた。

 

「それにしても日本メーカーの色はなんであんなの選ぶんかな!」

 日本のアウトドアブランドと言えば、モンベル・ファイントラック・フェニックスなんかを指す。どれも性能としては優秀なのに、色の選択肢が不思議だ。男性物は赤・青・黄色の原色が多いのに対して女性物は少し原色から外した色が大半だ。

特にモンベルはここのところくすんだ紫、ラズベリー色に凝っているのか定番レインウェアのストームクルーザー(ウィメンズ)のトップをこの色が飾っている。これはクラレットという色らしい。PCで「くられっと」を変換しても出ない(片仮名にならない)のだから、人口に膾炙した言葉ではない。よく言えば落ち着いた赤なんだけど、ちょっとオバサマ色だ。山を元気に歩こうというのだからもうちょっと若々しい色でもいいのではと思う。

ファイントラックはちょっと落ち着いたピンクというのだろうか。ピンクという桃色と言った方が適当な色がトップ。説明ではピオニーレッドと書いてある。これまた言葉で聞くと想像ができない。色は水彩絵の具のピンクといった感じで、ちょっと子どもっぽい気もする。

かくの如くで山ウェアにだけはうるさい私たちは喧々諤々を繰り返しているうちに実線コース(一般登山ルート)から破線ルート(荒れたルート)に入り、果ては地図上には描かれていないバリエーションルートに入り込んでしまい、四つん這いトラバースや灌木漕ぎ、稜線までの登り返しを繰り返して何とか上和田という集落に下山した。

 

f:id:yachanman:20200321155030j:plain

逆光とウェアの色で真っ黒に見える


その友人の山ウェアは無難な黒を選ぶことが多く、山中では肩幅の広さもあって俯いていると男に間違われるらしい。今回もモンベルのエクセロフトという化繊綿を使った黒一色のジャケットを着ていた。そういえば6年前に一緒に行った霞沢岳ではファイントラックの黒いレインウェアを着ていたし、私が言うのもなんだが、カッコいい登山者ではあるもののスタイリッシュにはなかなかなれていない。

「あの向かいの女の子が着てるダウンジャケットの色ええなぁ」

疲れ果てて山から帰る電車の中、向かいに座って本を広げている10歳くらいの女の子は淡いグレーとブルーの中間色のようなパタゴニアのダウンを着ている。子ども用だけど多分2万円以上するだろう。私なんぞはアウトレットセールで掘り出し物がないかを細かく探している。

結局、金に糸目を付けぬ方がファッショナブルになるのは山でも街でも関係ないようだ。

休眠登山者の本棚

本を買った。

図書館も閉鎖していて、週休1日状態で山にも行けない。山と読書は私にとってはセットで、ここ10年くらいはどちらかが切れると心の枯渇が起きてしまう。

そのどちらが深刻かと言えば読書の方で、定期的に文字を入れておかないと、怒りや苛立ちとか落胆といった感情だけが金平糖のツノみたいに心を覆ってしまい、そのうち「あー!」とか「うー!」といった感嘆詞しか言えなくなりそうになる。感情を抑える以前に心理状態が説明不能になるのだ。

そんなわけで立て続けに本を買うに至った。

 

買った順番とは多少前後するが、まずはこれ。

 

ヤマケイ文庫 空へ-「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日

ヤマケイ文庫 空へ-「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日

 

 
 
これは原題”INTO THIN AIR”で、1996年のエヴェレスト大量遭難についてのノンフィクションだ。昨年カナダに行った時、台風の影響で帰れなくなり、バンクーバーの本屋で買った。それはもちろん洋書なのだが、帰ってからバタバタしていて全然読めない。というか読んでもすぐに忘れてしまって、また最初から読んでを繰り返し。山の話なので単語も少し難しいのと、なによりも私に集中力がない。仕方がないので、ヤマケイ文庫から出ている日本語版『空へ』を買って併読することにした。
まだ最初だけど、日本語版もなかなかいい。洋書と日本語版を併読すると時々感じるのは直訳過ぎで不自然な日本語になっている部分で、それが嫌なこともあってあまり翻訳本を読まないのだが、これは遜色ない感じがする。翻訳者の海津さんがすごいのか、ジョン・クラカワーがすごいのか。
ちなみにジョンの綴りはJohnではなくJonである。バンクーバーのIndigoという本屋の検索PCで見つからず、やきもきした。そんな苦労あって発見した本なのでぜひ最後まで読みたい。
 
 

 あと気になっていたこんな本も。

洞窟ばか

洞窟ばか

  • 作者:吉田 勝次
  • 発売日: 2017/01/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

TBSの番組「クレイジージャーニー」にも出ていて、ぶっ飛んだ人だなぁと感じていたら相方がこの吉田勝次さんの本を買ってきた。この『オレはどうくつ探検家』は「どうくつ」が平仮名で表記されているように子ども向けの写真集で、彼女は子どもに見せてあげたいのだという。

しかしまあどうであろう。本当にこれを見てどうくつ探検に憧れたりしたら親のクレームを受けるのではないだろうか。写真で見ても穴の中というのは暗くて地味で危険が多そうだ。私は河原で焚火をしたり、山頂でおにぎりをほおばっている方がいいぞ。

オレはどうくつ探検家 (シリーズ 自然 いのち ひと)

オレはどうくつ探検家 (シリーズ 自然 いのち ひと)

 

 

 それはともかく『洞窟ばか』は吉田さんの半生を話し言葉で書いたものだ。ケンカといじめ明け暮れた少年時代。有り余るエネルギーを最初は登山にぶつけるが、洞窟と出会うやこれに人生を賭けてしまう。
本能のままにやりたいことを貫いてきた人生はよくわかった。少し惜しいのは文章表現が平易ではあるものの、上手とは言えないこと。本職が物書きではないので仕方ないけど、書き方でもっと面白くなる気がする。
同じくぶっ飛んだ本という意味では宮城公博『外道クライマー』だが、こちらは文章も上手。ただぶっ飛び方は『洞窟ばか』の方が上手かな。
外道クライマー (集英社文庫)

外道クライマー (集英社文庫)

  • 作者:宮城 公博
  • 発売日: 2019/03/20
  • メディア: 文庫
 

 

 最後に紀伊國屋書店で思わずかったのがこれ。

 角幡さんの本は好きで出るたびに買っている。本業のハードボイルド・ノンフィクションは文庫本で読みたいので、作者にはありがたくない読者だが、文庫化を心待ちにしている。今回は活字欲に負けてエッセイを買ってしまった。

探検家とペネロペちゃん

探検家とペネロペちゃん

  • 作者:角幡 唯介
  • 発売日: 2019/10/24
  • メディア: 単行本
 
 

 

 「ペネロペ」とは角幡さんの娘のことでもちろん本名ではない。生まれた時から事あるごとに可愛いとする娘の愛称だ。本書は溺愛する娘をひたすら哲学的に、理屈っぽく考察した文章である。

 角幡さんの本は『空白の五マイル』、『アグルーカの行方』に代表される本格ノンフィクションと、『探検家の憂鬱』、『探検家の事情』など軽めのエッセイ本と大別されるが、今回は理屈っぽいエッセイ本という新ジャンルを出してきた。
まだ最後まで読んでいないけど、途中少しくどく感じる部分がある。ただ、終盤になると慣れてくる。この不思議な読者の巻き込み方が角幡流なんだろう。
 
 ちなみに山の友人に聞けば山岳会の男性諸氏には宮城公博『外道クライマー』が人気で、女子には角幡唯介が人気だそうだ。山女子の中で角幡さんは「男前」なんだという。 本の売れ行きにも「男前」が影響するようだ。

想像力のスポーツ

少し前の人気番組『クレイジージャーニー』のDVDを買おうか悩んでいる。山にも行けず、週休1日状態の腹いせというやつだ。

テレビのない家庭なので、実家に帰るたびにちょこちょこ見ていてわりと面白かった。しかし、よくよく調べてみるとDVDになっているのはすべての回ではないらしい。竹内洋岳さんの回も抜けている。高度障害でゲロゲロ吐いている画がまずかったのだろうか。

 

竹内さんが「登山は想像のスポーツです」とよく語っている。これは「架空のスポーツ」という意味ではなく「想像力が試されるスポーツ」だという意味だ。ベースキャンプから稜線や頂上を見上げて、天候や登頂ルート、自分の体調を想像する。想像が現実を上回ることもあれば、現実が想像を上回ることもある。ただし、後者が極端になった場合というのは、準備が追い付いていない時であり、危険な状況になる可能性が高い。簡単な例を挙げれば、雪はまだないと想像してクランポンなしで行って、凍結した斜面が現れたら登ることはできない。登れないくらいならまだよくて、登った先で大雪でも降ったら最悪下山もできない。

 

まだ登山を始めて間もないころ、1月に愛媛・石鎚山に行った。2000m近いので雪があることは想定していて、6本爪のクランポンを持って行っていた。背中には1週間の旅行も兼ねた約25kg、80Lバックパックがある。頂上へ向かう途中の避難小屋を過ぎると、雪が急に固くなり階段が雪の下に埋まった。それまでツボ脚で簡単に歩いていたのに、突然の変化である。全くもって予想外で避難小屋まで退却となった。

結局、途中に重い荷物を置き(最初から途中で置いておけばよかった)、後から来たベテランのおじさん、おばさん、初雪山のお兄さんと一緒に弥山と呼ばれるピークと少し先にある険しい天狗岳にも登ることができた。

完全初心者が雪山に登ったという無謀登山なわけだが、無謀かどうかの問題は体力や経験によるものではないことがわかる。単に考えなしに黙々と歩いてしまった結果、登れないところまで行ってしまっただけで、想像力の欠如が原因である。

今でもボーっとしている登山ではちょいちょい失敗する。1月に凍傷になったのなんかはその典型で、頂上の気温や自分の体力に対する想像力が全く働いていなかった。案外登山道をボーっと歩いているときの方がトラブルが多いのは、想像力のスイッチがオフになっているからだろう。

 

野球なんかは、いかにも運動神経や動体視力がものを言いそうなスポーツだが、これも想像力が試されるそうだ。

実は打者はボールの軌道を見ていないのだという。投手の放った球は1秒に満たない間に捕手に到達する。その間に軌道を見てバットを振るのは手遅れで、打者は投手の動作を見て、あとは打つポイントを見ている。球筋なんかは実は見ていなくて、「あのモーション、この腕の振りならこの辺にこんな球が来るだろう」と予測して振っている。予測より速かったら振り遅れ、曲がりが大きければ空振りをする。

良い打者ほど予想が上手なのだという。つまり打者は想像の球を振っているともいえる。

 

すべてのスポーツは想像から始まるともいえる。いや、スポーツに限らないのかもしれない。ビジネスも勉強もわくわくする想像がないと始めようという気にすらならない。

野村克也が毎回、試合を3回していたと語っている。試合前に想像の試合。実際の試合。終わったあとの振り返りの試合。試合前の想像では100%勝つ。ところが実際には想像通りいくわけでなく、試合後に反省の意味を込めてもう1試合を想像の中で戦うのだという。

想像の中でも戦うとは心底野球が好きでないとできないだろう。まあ私も楽しかった山行を思い出してニヤニヤしているのだが。

f:id:yachanman:20161002095955j:plain

 

日々「忙しい、忙しい」と言っていると想像力がなくなっていく気がする。

ぼんやりと雲を眺めながら想像にふける時間がないと人生を楽しむこともできない。

パンデミック・パズルド

「これはパンデミックだ!」

会社の取締役がそう言った時、「なんのこっちゃ」と内心思った。家にテレビもなく、最近は会社と家の往復で、本もろくろく読んでいない情報弱者なので、かなりノー天気な私ではある。ただ、そんなに差し迫った危機があるようにも思えないし、なによりも本当に生命の危機をみんなが共有しているように思えない。

ところが現実は私のノー天気には反して、マスク・消毒液の在庫払底に始まり、なぜかトイレットペーパーやら米の買いだめと周囲が慌ただしくなってきた。学校は休校、図書館は閉館、イベントは中止。会社ではウォーターサーバーの使用中止、扉の常時開放(ドアノブに触れないため)が宣せられ、効果不明の取り組みが次々と始められた。

 

今回の騒動は不思議だ。未知の危機に対して人間は弱いと言ってしまえばそれまでだが、それ以上に「危機感を持たなければならない」という妙な強迫観念が世間を覆っている。簡単に言えば「安易なことをして身近に感染者が出たらどう叩かれるかわからない」という考えが支配していて、現実のウイルスの実質の脅威は思考のどこかに置き忘れられているのだ。

実際、感染していた人がスポーツジムに行っていたというだけであたかもその人が犯罪者のように騒ぎ立てるのはやりすぎである。発症していなければ身体を鍛えようというのは当然の考えだし、ジムに行くほど元気なら感染など疑っていようはずもない。

 

パンデミックはウイルスが起こすのではない。人が起こしているのだ。

個人的未踏ルート

世間一般がコロナ・コロナ・コロナで、自粛・自粛・自粛である。それ以前に仕事が忙しくて仕事・仕事・仕事の状態なので山に行くこともできない。

山に行けない腹いせに山岳マップを眺めていると、微妙に行ってないエリアがあるのに気づいた。「日本百名山制覇!」とかの旗印を掲げているわけではないので、隈なく日本の山々を渡り歩いていないのだが、縦走路の中にぽっかりと穴が開いているのは気になるところだ。

今回は「なぜか」行けていないルートを紹介したい。

 

北アルプス編】

西穂高岳~天狗のコル

一般登山者にとって、西穂高岳奥穂高岳は日本屈指の難ルートとされる。実際にはそれほど難しいわけではなく、とにかく岩が脆くて落石や浮石に注意というくらいではあるものの、あまり気安く行けるところではない。

4年ほど前にそのルートに挑戦しようと決意した。ようやく勝ち取ったお盆休みを使って上高地に下り立ったわけだが、天気予報は1日目と2日目の午前中まで晴れ。そこからグングン悪化していくというものだった。

当初の計画では1日目に槍ヶ岳近くのテント場に行き、2日目に大キレット、3日目に奥穂高岳から西穂高岳へという予定が、どこかを割愛せざるを得なくなった。結局大キレットに行くために西穂高岳奥穂高岳間を省略することにした。

1日目に上高地から岳沢経由で天狗のコルへ。天狗のコルは天狗の頭とジャンダルムの間にある落ち込みで、西穂と奥穂のちょうど中間点にあたる。ガレ場をガリガリ登ってコルに着いたのは上高地到着からわずか4時間ほどで、いきなり1500mも標高を上げたので頭がクラクラした。

f:id:yachanman:20150815090320j:plain

岳沢から天狗のコルに向かうザレ場

結局、予定通りジャンダルムに登頂し、大キレットを渡って、3日目雨の中を再び上高地へ下山したのだが、微妙な空白地帯を残してしまった。西穂から天狗のコル間の微妙な区間を行く計画はまだ立っていない。

 

②不帰キレット

名前がなんとも魅力的である。漢文調で、山好きでないと読めない。

不帰の近くにある八峰キレットには3年ほど前に行った。1泊2日で扇沢から鹿島槍ヶ岳キレット小屋泊で、五竜岳から遠見尾根を下山。2年前には白馬岳から2日不帰の入り口まで行ったものの、雨で断念。よって唐松岳を含めて空白地帯となってしまった。

写真は五竜岳から白馬岳方面を写したもので、多分雲のかかっているあたりが不帰なのだろう。

f:id:yachanman:20160904082613j:plain

 

今の野望は八峰キレットから不帰キレットをつないで、白馬岳から栂海新道で親不知に抜ける一本道コース。

何日かかるだろうか。そんな休み取れるかな。というかそんな体力があるだろうか。

 

南アルプス編】

仙丈ヶ岳~三峰山

 南アルプスではよく縦走登山をした。山がどーんと大きいので、縦走しがいがある。

北岳間ノ岳農鳥岳の白根三山縦走。鳳凰三山から甲斐駒ヶ岳につながる早川尾根。黒戸尾根から甲斐駒ヶ岳を経て北沢峠。悪沢岳から赤石岳までの反時計回り縦走。塩見岳間ノ岳北岳を1泊2日縦走など。

そんな中で微妙に残したのが仙丈ヶ岳から三峰山までのルート。仙丈ヶ岳は夏と冬に一度ずつピストンしている。去年、三伏峠から塩見岳間ノ岳北岳を縦走した。仙塩尾根の中ででこの区間が残っている。

去年、三伏峠から塩見岳に登り、2日目に三峰山の分岐で一度立ち止まった。そこから直進すれば間ノ岳に向かい、左に折れれば仙丈ヶ岳につながる。稜線は3000m近くから一度2500mくらいまで落ち込んでいて、再び仙丈ヶ岳が3000mを越す高さに立っている。その稜線に立ち入れば、仙丈ヶ岳を越えて北沢峠に向かうか、途中で野呂川沿いに立つ両俣小屋に下りるしかない。ただ、仙塩尾根を辿るのに、「仙」の字を入れたい。

さんざん迷って、間ノ岳を目指すことにした。すでに前日は3時間睡眠で12時間近く行動していて、疲れたということもあるし、翌日が悪天候になるという予報もあった。結果的には翌日も晴れたみたいなので、少し後悔している。

山はいつでも行けるものではない。

f:id:yachanman:20190915071039j:plain

 

三伏峠荒川岳赤石岳~兎岳

 南アルプスの南部は特に行きづらいところだ。バスは7月から9月くらいまでしか運航しておらず、しずてつジャストラインか毎日アルペン号を使うくらいしかない。しずてつに至っては7月と8月しか運航していないので、うっかりすると下山してから帰ることができなくなる危険性がある。おまけに相手は山なので、縦走を計画しても首尾よく予定の場所に抜けられるかもわからないのだ。

初の南アルプス南部は、椹島ロッジから千枚小屋経由で悪沢岳赤石岳に登り、赤石小屋に泊まり、再び椹島に下りた縦走で、梅雨の終わりの悪天候を何とか縫って登頂できた。

f:id:yachanman:20140720072741j:plain

大きな山塊、赤石岳

2度目は聖平小屋を通り抜けて聖岳に登り、兎岳避難小屋に泊まった。そこから赤石岳まで縦走するつもりが、悪天候のため諦めて下山。ずぶ濡れになってしまった。兎岳避難小屋では同じ目論見のお兄さんがいて、その人は雨の中を飛び出して行き、赤石岳上小屋に行けたそうだ。何も見えないような状態だったらしく、楽しくもなさそうだったが、行けたとなるとなんだか羨ましい。私はこの区間がいまだ未踏である。

三伏峠から荒川岳間も未踏となっている。今度は一本につなげて光岳まで行けたらと思っているものの、果たしてこれから行けるだろうか。

f:id:yachanman:20160918064230j:plain

何も見えない兎岳

さてさて、今年はどこに行こうかな。

野田知佑さんの言葉「いつでも遊びに励め。人生には締切があるのだ」