今から1ヶ月以上前、7月終わりに平出和也さんと中島健郎さんの遭難が告げられた。
私は特に面識というほどのものはないものの、平出さんと言葉を交わしたことはある。10年以上前に石井スポーツの店頭に立たれていて、私がハーネスを買う際に接客してもらったのだ。
「安いのはベトナム製。高いのはヨーロッパ製で品質に差はないです。安い方が得ですよ」
とメーカーのセールスなら言いそうにないことを淀みなく話していた記憶がある。
さて、2人の遭難が報道された際に「43歳の壁」という言葉がネット上に挙がったらしい。
この人口に膾炙しない言葉はノンフィクション作家の角幡唯介さんが文芸誌の中で書いたものだ。43歳で遭難している日本の登山家・冒険家が多いことを取り上げていて、自身の経験を基に原因を探っている。
簡単に書くと、若いころは体力と気力のみで突っ走っていたのが、40歳くらいになると経験値が広がって、できることが多くなっていく。できることが増えるとまた新しい可能性と世界の広がりを感じるのだが、次第に体力の方が落ち始める。この臨界点が43歳にあたり、遭難という結果につながっているのではないかというわけだ。
私はこの言葉を5年ほど前に石川直樹さんの講演で聞いた。その年、石川さんは43歳になる年で、K2にも2度目の挑戦をすると言う。その中でこの不吉な言葉が気にかかると言っていた。
40になって私自身が感じるのは、体力は伸びないものの、大きな落ちも感じない。ただ、トラブルがあっても「なんとかなるだろう」と思うことが増えた。
まさに不惑と言えるわけで、「なんとかなるだろう」がないと次の一歩が踏み出せない。登山の場合、登れる自信より下山できる自信の方が生還のためには重要なので、登っても「なんとか下山できる」という確信がないといけない。
それが40歳くらいで熟成されるということだろうか。しかし、自然はなんともならない仕打ちをしばしば見せるのだ。
ともかく、お2人の遭難。かえすがえすもショックである。