奥田英朗『延長戦に入りました』というエッセイ集の最初に、日本人は故障フェチではないかという文がある。確かにアスリートが故障を乗り越えて手にした栄冠は、単なる史上最年少とか最速記録より心打つものがある。
オリンピックで言えば山下泰裕も古賀稔彦も大怪我をしての金メダルだから伝説となった。逆に金メダル確実と言われて銀メダルに終わって叩かれた小川直也なんかは気の毒としか言いようがない。
しかし、怪我をしたくてする者はいないわけで、怪我を何ヶ月も引きずるとホトホト嫌になってしまう。
過去、一番長く引きずった怪我は右手薬指。
痛めたきっかけは、休日出勤したある日。「クライミングしたいなあ」と棚の上部に指を掛けた瞬間、痛みが走った。
しばらくは曲げ伸ばしも痛い。しかし、数日すると特に何も感じないので、クライミングジムへ。するとホールドに指を掛けた瞬間に激痛が走り、その日は何もできなくなってしまった。
どうやら第二関節の靭帯を痛めたらしい。その後は薬指をグルグルにテーピングし、親指と中指、人差し指の3本でクライミングをしていたものの、何かの拍子に薬指を引っ掛けて痛め、ということを繰り返していたら完治するのに半年かかった。
右足首の時と違って完治したからいいものの、常に故障を抱えるという不便を存分に味わうことになってしまった。