休日に遠出もできないのでDVD鑑賞第2弾を行った。
堺雅人主演の「南極料理人」。閉じ込められた環境で、もっと閉じ込められた男たちの物語を見ようという趣向だ。
この映画は、西村淳著『面白南極料理人』が原作で1997年の南極観測隊ドーム基地を描いている。
私はこの映画は原作を先に読んでいた。こういう時の映画版の見方は難しくなる。原作が実話ならなおさらで、どうしても映画が虚構の話に見えるからだ。
どうやらこの映画の監督は「世界一遠い単身赴任」というのを描こうとしたらしい。堺雅人はじめどの俳優も個性派で演技が上手いものの、極端な癖のない役をしている。しかしながら、原作の方では作者・西村淳さんの描き方もあって、曲者だらけなのだ。
例えば、南極料理人・西村淳は、映画で堺雅人が演じ、みんなからは「西村くん」と呼ばれる新米っぽい雰囲気だったが、実在の方は不精髭を生やした、日本昔ばなしの百合若大臣みたいな人で、あだ名は「大将」となっている。しかも南極も97年当時で2回目。行く前から猛者という風情である。
他にも川村隊員は、映画では細面でひ弱な大学院生という描かれ方だったものの、実際には軽妙な関西弁を使う明るい関西人で、この時新婚である。映画の中では南極で失恋するという悲しい役なのだが、実在の方は帰りに寄ったオーストラリアで結婚式を挙げている。
こんな風に挙げていたらきりがないので止めるけど、本の方で写真が多く掲載されているので、俳優とのギャップがかなり大きく見える。
ちなみに機械担当のサボり癖とドクターの体力自慢は映画と本で一致していた。
映画ではあくまで「単身赴任」というスタンスを貫いているので、南極の日常をあくまで描いている。日常とはすなわち食事であり、8人のオジサンたち(原作は9人)は過酷な環境でなにより食うことに命を燃やしている。伊勢海老のエビフライや巨大な肉塊を使ったローストビーフ、本格フレンチに中華。これは見ていて楽しい。単に腹が減るだけなのだが。
西村淳さん自身が語るところでいくと、人間の三大欲求のうち、南極で発散できるのは食欲だというのはこの物語の根底にある。なにしろ金があっても使うこともできず、それぞれのパートナーは千里の彼方。おまけに外はマイナス70℃ともなればじっとしていても腹が減る。
映画では食事が心の隙間を埋めるところに焦点を当て、堺雅人が隊員たちのお母さんのようになっていくのがこの映画の主眼のようだ。孤独と寒さにあえぐ隊員たちが食事に癒されるというところを見る映画らしい。
結局、映画は映画として独立した作品として見るのがこの映画に対する正しいスタンスなのだろう。
劇的な事故もなく、微妙な喧嘩くらいしか起きない南極ドーム基地を描いたという意味では原作に忠実ではある。しかし、原作の面白いエピソードをもうちょっと使ってはいいのではないかとも思う。
いやはやノンフィクションというのは難しい。