いつの間にか桜が咲いて散ってしまった。今年ほど悲しい桜はあるまい。気がついたら咲いていて、大して看取られることなく散ってしまったのだから。
公園には花見自粛の札がかかっている。
東京に来た次の春、花見をはしごした。隅田川から歩き始め、上野公園に入り、靖國神社に行った。
大阪の桜の名所は桜ノ宮にある造幣局で、それはそれで美しい。ただ、東京の桜は規模が違った。
「春のうららの隅田川」
という唱歌は小学生の頃に聞いたものの、実感として湧かなかった。しかし東京で隅田川に行くと爆発的にソメイヨシノが満開で、人も負けじと満載。さほどきれいとは言えない隅田川にもクルーザーが入り込み、とにかく「春だからいいのだ。これでいいのだ」と百花繚乱の雰囲気を醸し出している。
隅田川と上野は下町のどんちゃん騒ぎがそのまま体現されていて、活気があり下品である。一方で靖国神社や、その後行った新宿御苑、皇居の千鳥ヶ淵は落ち着いている。酒が入らないからだろう。それでも人出の多さは相変わらずで、1000万人いる都民がみんな花見に来ているのではないかという騒ぎである。
春の東京は桜の街だ。
東京のそれに対して関西は場所によって花の種類が変わる。
菅原道真ゆかりの場所は梅が有名だし、桜も山桜や枝垂桜が有名なところも多くて、ソメイヨシノ中心の東京とは大きく異なる。奈良の吉野山は山中に山桜が咲き誇ることで有名である。
思うに、東京は江戸時代になって急速に発展した街であり、その後も関東大震災や東京大空襲などで街全体が焼き払われており、天然の原木より植林が多いためだろう。ソメイヨシノは1本の木から接ぎ木して増えた種類で、すべて兄弟というかクローンである。たった1本が爆発的に増えたのは、江戸・東京の人がただただ春を謳歌するために増やしたに違いなく、ソメイヨシノは見られるためだけに咲いているのだ。
来年こそは見事に咲いた桜が見られることを期待したい。