クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

家を建てるリスク、建てないリスク

後輩がついに家を建てることにしたらしい。

と言っても土地の購入を契約しただけで、上物はこれから。注文住宅にするらしく、完成は来年の夏ごろになるという。

1年後の話だが、本人たちは一生に一度の買い物ということでかなり意気込んでいるようだ。

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山で会ったお方に泊めていただいたロッジ

家を買うということで真っ先に思い出すのが周防正行監督の「Shall we ダンス」。

主人公の役所広司が終盤の場面でヒロイン草刈民代に言う。

「家を買って何かが変わった。妻が嫌いになったわけでも子どもがかわいくないわけでもない」*1

家を買うと、サラリーマンという生き物は目標を失い、ふわふわと日々を過ごす脱け殻になるのだろうか。当時小学生だった私は戦慄した。そして思った。

「家を買ってはいけない

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これも一国一城?

奥田英朗『家日和』の「うちにおいでよ」では妻と別れる寸前の男が自分のマンションを自分好みに作り変えていく場面がある。今まで妻の言いなりだった家具を自分好みのものにし、オーディオやホームシアターを作る。

そのうちに家を建てた同僚たちがその部屋に集うようになる。同僚たちは口々に言う。

「所詮俺たちは給料配達人。家は女の城なんだよ」

家を建てて幸福を噛みしめるのは一瞬で、その後は家から男居場所はなくなるらしい。

そう考えるとますます家を持つということから遠ざかってしまう。

 

さる先輩は、夫婦とも母子家庭ということもあって、4人で住める家を建てたという。

しかし、いくら娘と息子が夫婦と言っても他人同士が暮らすのは難しく、あえなくその生活は破綻。決して夫婦仲が悪いわけではないので、今でも結婚生活は続いているが、使いづらい家が残ってしまったという。

どうしても家を建てるときには、今の家族構成を中心に考えてしまうので、後々いろいろ不便が生じることが多いようだ。子どもができる前に家を買ってしまうと、子どもが生まれて手狭になるし、子ども部屋を大きく取った家は成人したら持て余してしまう。

そうなるとヤドカリのように時々で借りた方がいいという考え方もできる。

 

さて、件の後輩は

「働けるうちに住処を確保しておきたい」

と、実に堅実かつ保守的な見通しのもと家を建てるらしい。

しかし、これからどんな家にするか実に楽しそうでもある。山の友人で家を建てた人は、1階をガレージにして雨の日でもDIYを楽しめるようにしていて、これはこれで楽しそうだ。

家を建てるのはある意味一瞬の勢いと気の迷いなのかもしれない。

しかし、一生正気に戻らなければこれほど幸せなことはないのだろう。

*1:かなりうろ覚え。正確ではない