クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

都会の中のサバイバル~服部文祥『サバイバル家族』を読む

アウトドア派には共通する悩みがある。

「そんなに自然が好きなら自然豊かな田舎に住めばいいではないか」とも思うが現実はなかなかできない。アウトドアというのは所詮レジャーの一部だから、金銭を稼いではじめてできる行為である。農業や林業、狩猟などで生計を立てることができれば理想かもしれないものの、それらに従事すると忙しすぎてなかなか遊べないだろう。

世の大半のアウトドア派はある程度効率的に都会で稼いで休日に自然へ繰り出す。

しかし、平日に大量の物資やエネルギーを使って都会生活を享受し、休日だけ自然好きを気取っている姿には自ら若干の罪悪感を抱えている。

 

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そんな葛藤と折り合いつけながら楽しく生活している『サバイバル家族』を読んだら非常に面白かった。

 

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筆者、「サバイバル登山家」を自称する服部文祥さんは、家族5人で大都市郊外に暮らしている。

おとうちゃん(文祥さん)は雑誌の編集や自著の執筆をしながら自己の哲学で狩猟をし、ニワトリを飼い、野糞をする。そしてそんなぶっ飛んだおとうちゃんに妻は辟易している。

ただ、おとうちゃんだけが「サバイバル登山家」の名のとおりぶっ飛んでいるかと言えばそうではなく、子どもたちも少しずつ「サバイバル家族」たる色がある。

池でカメを捕まえて食べたり、可愛がっていたニワトリをうまいうまいと食べたり。エアコンを付けるべきか否かで家族会議を行い、賛否が分かれるあたりがおかしい。しかも末っ子の娘が反対派なのだ。

 

ただ、それだけではないのがこの本の面白いところである。

偏差値全盛時代の生き残りである文祥さんは子どもの成績が悪いと落ち込んだり、娘が部活でキャプテンになって全国大会に行くとなるとちょっと誇らしかったりと「普通のお父さん」の匂いも漂わせている。自分の哲学ではないが、社会・都会との折り合いに葛藤する姿が現れているのだ。

文祥さんの著作『サバイバル!:人はズルなしで生きられるのか』では、金で解決するのはズルだとしていた。しかし、現代において自給自足で自己完結する生活はほぼ不可能。猟に使っている銃も金銭で贖ったものだ。

『サバイバル!』が自身の哲学を集約した著作だったのに対して、『サバイバル家族』では哲学と現実の狭間に立つ姿を家族を通して上手に描いている。

哲学を語る当事者が

「都会生活なんてズルだ!」

などと言えば

「アラスカの荒野にでも住めよ!」

となるが、家族がいるとなると少し話は違う。家族生活は楽しいし、金銭なしで家族を養えない。

 アウトドア好きは常々「都会生活やめて田舎でのんびり暮らしたいなあ」と考えながらなかなか実行できないでいる。これまでのゴリゴリとした「サバイバル哲学」からちょっと肩の力を抜いた本作は意外と一番面白かったと思う。