クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

クボタちゃん

その飲み会も主役は彼女だった。

ここでは仮にクボタちゃんとしておこう。24歳。背は150センチ少々と小柄だが、二重瞼の大きめの目に色白の肌、肩より少し下まで伸ばしたストレートの栗色の髪、やや幼い顔立ちで、いわゆるかわいい女の子を想像してもらえれば間違いない。

飲み会の最初は明後日から産休に入る女性の子どもにつける名前についてだったが、酔いが回ってくるとクボタちゃんはいつもの調子で話し始めた。

 

クボタ「この夏は京都に行ったんですよ」

私「この時期暑かったんじゃない?」

クボタ「暑かったっスよー。死ぬかと思いました。それで、一つだけ願いを叶えてくれるっていう『ドラゴンボール』みたいなお地蔵さんがある寺に行きました」

酔うとやや言葉遣いがぞんざいになるのはいつものことである。

クボタ「そこのお地蔵さん、日本で唯一ワラジを履いてるんです。そこ年中鈴虫鳴いてるっていうで行ってみたんです」

嵐山にある鈴虫寺に行ったらしい。

クボタ「そこでお寺の人に話聞いて『いい人に出会えますように』って願ったんです。そうしたらお地蔵様がやって来て願いを叶えてくれるらしいんです」

一同「へー!」

クボタ「そしたら一週間後に合コンがあって、ちょっといいかなーって思う人がいたんですよ!」

お地蔵様もずいぶん俗っぽい願いをされたものだ。と言ってもクボタちゃんにとっては切実な願いで、ここ2年の彼女の至上目標であるとともに飲み会の話題の大半を占めている。

クボタ「これはお地蔵様の導きに違いないって思ったんです!同じ山形出身で、色白で痩せててイケメンで」

女子A「いいじゃない」

クボタ「でも、彼年下なんです」

女子A「いくつ?」

クボタ「一つ」

一同「えー!いいじゃない一つくらい」

女子A「一つくらい誤差だよ」

クボタ「お地蔵さん、きっと歩いて来るでしょ。新幹線なんて乗らないだろうし。歩いて来るのに一週間は早過ぎるし、きっとこれはフェイクかなって」

クボタちゃんはハイボールを一口飲んだ。彼女は小さな体躯に似合わず酒豪であるが、同時に酒に飲まれることも多い。飲み会後の寝過ごしは日常茶飯事で、東海道線は熱海から宇都宮まで制覇している。住んでいるのは横浜なのにどういう状況になったか想像もつかない。

クボタ「年はそうなんスけど、なんか軽いっていうか。LINEでやり取りしてて、突然『帰宅!』ってくるんですよ。お前が帰ったなんて知らんって」

23、24くらいのノリなら普通だろう。ただクボタちゃんには許せないらしい。合コン三昧の軽いノリの子と思いきやお地蔵様にお願いしたりと古風なところがあるのだ。

クボタ「合コンでは最初は清楚とか言って持ち上げられるんスけど、料理しないって言ったら男が一斉にドン引くんスよ。あれは周りの女が持ち上げて落とす策略ですよ」

女というのは怖いものらしい。ただ、料理なんて「頑張ります!」とかかわいく言っておけばいいのに嘘を付けないのが彼女らしい。

クボタ「最近考え方を変えなきゃいけないなーと思ってるんです」

さすがの合コン三昧娘も少し疲れたらしい。そもそも彼女は条件ありきで男を探している。条件とは顔、金、性格の順。合コンで好条件の男が釣れると本気で思ってるのだろうかと感じていたが、さすがに姿勢を改めるようだ。

クボタ「今までは顔が第一条件だったんですけど、顔と金が同じくらいに来てます。なんなら金の方が上で、やっぱ金かなーと」

全然反省しとらん!


クボタ「横浜中華街の占いでは25歳で出会って28歳で結婚って言われてるし、お地蔵様には年内ってお願いしてるんでこれから出会うと思ってます」

そう言うと、彼女は少し不揃いな前歯を見せて笑った。