クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

登山・ラーメン考

会社の後輩がときどき「あー、ラーメン食べたいなぁ」と呟く。彼のおすすめは東京八重洲地下にある海老風味ラーメンの店で、ちょいちょい行っているようだ。私は美味しいインドカレーくらいなら付き合うのだが、ラーメンに700円以上かけるのには食指が動かないので行ったことがない。

 

そんなことを言っているが、多分私のラーメン頻度はかなり高い方だと思う。ラーメンだけでなく、うどん・焼きそば・冷やし中華なども含めて食に占める麺の割合は結構高い。特に登山中の食はほぼラーメンと言っても良い。

ただし、私の言うラーメンとは1杯1000円以上するミシュランガイドに載ったようなお店のものでも家系でも二郎系でもなくインスタントラーメンである。今のインスタントラーメンは素晴らしい。一昔前のインスタントラーメンはフニャフニャのちぢれ麺ばかりで、油断するとすぐに伸びてしまった。それが、今では下手な店で食べるくらいならインスタントラーメンの方が美味いのである。

前回は最近凝っているチャーハンを題材にしたが、ここのところ山食のメインを張るラーメンに注目したい。

 

日清食品・ラ王

言わずと知れたインスタントラーメンの雄である。

「ちょっと豪華なカップラーメン」として登場した時は感動した。麺を茹でるお湯とスープ用のお湯を分けるのは少々面倒だったが、初めて食べた時は「もうラーメン屋に行く必要ない」と感じた。実際、下手なラーメン屋で500円も払って残念な思いをするよりよほどいい。

しかし、残念なことに当時は生麺タイプだったので山などに持っていくことはできなかった。ちなみにラ王は凍らせてから茹でると麺が出来損ないのパスタみたいになってしまうと『面白南極料理人』に書いてある。

それが時を経て袋麺で再登場しているではないか。食べてみると麺はしっかりしているし、スープもさすがである。乾麺でこれはすごい。しかも凍るほど寒くても暑くても大丈夫。もやは死角なし。山に持って行ける。

難点は丸く編まれている麺は固いので、クッカーに入らないときに手で割ることが難しいことである。しかし、逆に言うとバックパックの中に押し込んでも粉々にならないので短所は長所であるとも言える。

そんなわけでラ王が山ラーメンの第一席を占めている状態だ。

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ラーメンばかりのテント泊


 

 

②マルタイ・棒ラーメン

20年か30年前の登山では必ず棒ラーメンが入っていたという。おそらく袋麺にくらべてかさばらず、パッキングが楽だったからと想像される。

確かにパッキングが便利なので私も時々持っていく。ただし、持っていくのは棒ラーメンでも「博多屋台味」である。マルタイ・棒ラーメンには「しょうゆ味」と「博多屋台味」があり、定番はしょうゆとされているが、私はあまり好きではない。マルタイはやはり九州の会社なので豚骨風味の屋台味は良くできている。やや豚骨が臭いので、好みは分かれるだろう。

 

登山者で深谷明という人を知っている人はかなりレアだろう。日本の山で長期縦走をしていた人で、2000年以降に20日とか30日とかの縦走を繰り広げていた。

昭和の縦走登山家と言えば加藤文太郎だが、彼はサラリーマン登山家でもありせいぜい2週間が限界だった。

それを深谷明は30日とか行くのである。2013年に北アルプスで行方不明になり、あまり世間的には知られない人物なのだが、彼の食料は棒ラーメンだったという。しかも具なしの棒ラーメン。来る日も来る日も棒ラーメン

これが自分なら発狂、の前に下山する。30日も棒ラーメンを食べられない。彼は通称「棒ラーメンの人」と呼ばれたらしい。

 

登山家の竹内洋岳さんは初期のヒマラヤ登山でさんざん食べたが、嫌いだと言う。東京生まれの竹内さんには合わなかったようだ。

関西生まれの私はまあまあ好きだが、連続で食べるのはちょっと辛い。

 

チキンラーメン

これは何と言っても、かの安藤百福さんの最大の発明であり、カヌーイスト・野田知佑さんがCMに出たことでも知られる作品だ。野田知佑さんが校長を務める「川の学校」では今でも「チキンラーメンは自分で作ります」という有名な台詞が出るくらいだと聞いた。チキンラーメンを他人に作らせるくらいズボラな人間にアウトドアをする資格はないとも思う。

 

チキンラーメンはアウトドアに向いている。まず具なしで食べられるのがいい。他のインスタントラーメンは必ず出来上がりイメージにチャーシューや葱などを乗せるが、チキンラーメンは今でも卵と刻み葱のみだ。

私も家では卵や肉、野菜と一緒に食す。ただ、山では具なしでそのまますする。味は変わらない。

チキンラーメンの魅力はお湯を注ぐだけということに尽きるだろう。具を入れても入れなくてもラーメンの味に変化はない。しかも生でも食べられる。味はおやつカンパニーベビースターラーメンそのものである。

なぜか山でチキンラーメンを食べる人をあまり見ない(私もテントで朝飯に食べるのであまり見られない)のだが、最強の山飯だと思っている。

 

日清食品ソース焼きそば

ラーメン特集なのでちょっと番外。

雪山を始めた頃はこれが一番だった。カロリーがそこそこ高い。麺を茹でたお湯でポタージュスープを作り、焼きそばをすする。ここのところ毎年行く黒戸尾根・甲斐駒ヶ岳山行を支えるのはこの2つだと言っても良い。

他のインスタント焼きそばも試したが、日清の焼きそばは粉末ソースで、他は大抵液体ソースだ。液体ソースはフライパンなどで炒めることが前提となっており、少ない水と少ない燃料を前提とする山には向かない。粉末ならほぐした麺に絡めるだけでOKだ。

あと私にはラーメンの汁を全部飲むのが辛い。山では資源がすなわち生命なので、残り汁だろうと無駄にできないのは承知だが、塩辛いだけのラーメン汁を飲み干すのは少々骨が折れる。

この焼きそば+ポタージュセットなら大満足で夕食を終えられるのだ。

 

辛ラーメン

登山ラーメン特集と言いながら、ただのインスタントラーメン論評になっている。

私の周りには「山に行くまでインスタントラーメンなんて食べたことなかった〜!」なんて言うセレブアルピニストが何人かいて、なんだか面白そうかなと思って書き始めたものの、ただのものぐさインスタントラーメン大好き野郎のようになって少々遺憾である。

最後は日本以外の産である辛ラーメンで締めくくりたい。

 

辛ラーメンは韓国の生まれで、なんでも韓国では圧倒的なシェアだと言う。一方日本のインスタントラーメン界は百花繚乱で、ラ王のライバルとしてはまるちゃん正麺なんかもあって、これもなかなかの存在だ。

韓国No.1であれば山でも有効かもと思い、時々使っている。最大のメリットはカロリーで、日本のインスタントラーメンが概ね一食300kcal強なのに対し、辛ラーメンは500kcalを超える。単純に袋のサイズも大きいわけで、バックパックの中で割れたりパッキングには手間取るわけではあるが山向きには違いない。

あとは味である。好みは分かれるものの、私は辛い物好きなので大丈夫と踏んで辛ラーメンに挑戦してみた。

一口食べると辛い。二口食べると辛い。三口食べると辛い。と際限がない。

 

広島にいた時、「ばくだん屋」という辛いつけ麺屋のチェーン店があって何回か行ったことがある。辛さを「何倍」という指定ができ、何倍以上はレジェンドとか書かれていた。今考えると辛いものを食べられるのはただ鈍感なだけなのだが、鈍感な私は少々高めの辛さを指定して得意になっていた。

ええっと、何の話をしてたんだっけ?ああ辛ラーメンだ。辛ラーメンは日本的な旨味のある中の辛さでなく、わりと直線的な唐辛子辛さである。好みが分かれのはもっともだ。

私は結局卵スープの素なんかを辛ラーメンに混ぜて食べている。ちょっと旨味が増すからだ。この方法は自分で考えたわけでなく、韓国人の友人が話していたので実践してみたわけで、本家(と言うのかな)の意見はやはり違う。

辛ラーメンも世界進出を考えるなら、鰹や昆布出汁とか鶏ガラスープとか味の素なんかを考えた方がいいと勝手に考えている。

ただ、あのカロリーと煮込みやすい麺はなかなかだ。山食としてさらなる進化を祈る。

 

いつもながらわけわからん評論というか雑文になってしまった。

山食はラーメンがHOTである。一度槍ヶ岳冷やし中華を作ったら夏なのに凍えそうになった。フリーズドライの米とかもあるが、まだまだ普通に炊いたご飯の方が美味しい。

とはいえラーメンもまだまだ発展途上だ。ラーメンにチャーシュー・メンマ付きとかコンパクトで軽いのにカロリー2倍とかが出ると日本の登山界も明るい、と勝手に考える私なのである。