外出自粛の上に大雪が降ったので、部屋でDVD鑑賞とすることにした。映画は「エベレスト」である。
Lenovoのノートパソコンにドライブを繋いで見ようとしたら、まるで読み込まない。ディスクは勢いよく回転しているのに一向に再生せず、念力を込めてもまるでダメである。そのうち、キュイーンと子犬の鳴き声のような音がして停止してしまった。DVDの不備の可能性もあるので、違うディスクを入れてみたものの、結果は同じ。どうやらパソコン側に問題があるらしいことがわかったので、結局DVDを見るために外出するという本末転倒の結果になってしまった。
外は牡丹雪が舞い散り、人通りは少ない。とにかくパパッと行ってササっと帰った。上下着たレインウェアはビチャビチャだ。
さて「エベレスト」である。これは劇場で見たので、おおよそストーリーは覚えているし、今ジョン・クラカワーの"INTO THIN AIR"を読んでいるので新鮮さはない。
舞台は1996年のヒマラヤ。かつて冒険家たちの憧れだったエベレストに商業登山隊がはいりこみ、世界一のテーマパークに変わりつつあった。当然、世界一の標高と低酸素には違いないのだが、ベースキャンプには音楽が鳴り響き、夜は酒を飲んでのダンスパーティー。命を懸けた挑戦といった悲壮感はない。
しかし、明るい雰囲気の一方で下界にあるようなコミュニティとしての問題が相次いで勃発する。一本道での渋滞で、長時間高所にとどまる危険性が高まったり、転倒による巻き込み事故が起きたり。
人が多くなればトラブルが増えるのは山も街も同じなのだ。
ストーリーはロブ・ホールというクライマーの主催する商業登山隊を中心に進む。吉日とされる5月10日の登頂を目指してベースキャンプは動き出すが、天候は微妙という状況になる。それでも悪天候の間隙を縫って登山隊は動き出すのだが、突如として荒天が襲いかかる。下山の遅れた登山者たちはルートを見失ったり、体力を失って倒れこむ。最新の装備、情報を完備しているはずの登山隊もエベレストの天候の前には無力だった。
中心となるロブ・ホールは妊娠している妻を残し、ヒマラヤに来ていた。彼は下山中、どうしても頂上に立ちたいという登山者を誘って再び頂上に立つが、そのため下山が大幅に遅れ、難所ヒラリーステップの近辺で妻と会話しながら力尽きる。
否応なく感情移入してしまうシーンで、芯から山は怖いと感じた。低酸素という状況を除けば、日本の雪山でもありそうな場面だらけなので、余計にリアリティを感じる。実際にはヒマラヤではなくアルプスの4000mくらいで撮影したそうなので、そう思えるのかもしれないが。
この映画を劇場で見た直後に私は友人たちと西穂高岳に向かった。
もうすぐ子どもが生まれるという彼はGoProで自撮りしながらこう言った。
「パパだよー!」
とっさに映画のシーンが蘇る。
「こういうこと言う奴が一番先に死ぬんですよねぇ」
思わず吹き出してしまった。
「最近そんな映画を見たばかりなんですよ」
この時は12月の雪山登山で、嫌なトラバースがあったものの、滞りなく登り、西穂山荘でラーメンを食べ、松本で風呂に入って文句のない登山ができた。
映画の中で、ジョン・クラカワーが登山者たちにしつこく訊くシーンがある。
「なぜ山に登るんだ?」
うーむ。なぜだろう。怖いことを忘れるからだろうか。怖いもの見たさだろうか。
しかし怖くないと登らないというのも別な真理だろう。