クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

雁ヶ腹摺山の道迷い登山について

先週、雁ヶ腹摺山に富士山を眺めに行った。旧500円札の富士山はその頂上から撮影されたらしく、「秀麗富嶽十二景」で1番という番号が振られている。

中央線の立川駅で落ち合った我々は7時少し前に大月駅に降り立った。ここからバスに30分弱乗り、ハマイバというところまで移動。大峠まで林道を辿り、そこから一般登山道に入った。

快晴。雁ヶ腹摺山頂上からは大きな500円札富士山が見える。

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500円札富士

 

今回は多いに油断していた。雪のほとんどない低山でそれほど寒くもない。風は少々強いものの雲は見えない。

雁腹からは大月駅に向けて稜線を南下するつもりだった。雪が吹き溜まったやや急な階段を下ると、強い風に吹かれて少しふらつく。寒くなってきたので足早に進むと樹林帯に「大峰」という標識があり、2人で地図を見直した。よく見ると当初の南下するラインではなく東進していたらしい。頂上で1つしかないと見ていたルートだったが、違う方向に来てしまったようだ。

 

山の鉄則がある。

「迷ったら引き返す」

下る方が迷いやすいからで、頂上や稜線ならルートに復帰できる可能性が高い。下る際に沢沿いに出ると滑落の恐れもある。

 雁腹から予定外の道に入った私たちは一般登山道から破線ルートを辿ることになった。一応は登山道なので、テープやビニール紐の目印がある。風は進むにつれて弱くなった。山専ボトルをバックパックから取り出し、それぞれカップラーメンとアルファ米のドライカレーを食べた。

破線ルートに入った当初の緊張感は次第に薄れ、再び私たちは山談義をしながら下って行った。途中、泣坂ノ頭というところに差し掛かる。そこから稜線を巻くような踏み跡があるので、迷わず下ると崩れた斜面が出てきた。崩れた斜面というのはある意味で険しい岩場より難しい。岩が砕ける可能性は低いが、土はもともと岩が崩れたものなので、崩れるべきものなのだ。

 崩れたトラバース斜面を渡る。片足を置くとバラバラと石ころや砂が崩れ落ちていった。慎重に四つん這いになって移動する。

「落ちたらミミズ腫れやなぁ」

後ろから友人の声が聞こえた。「ミミズ腫れ」なんて久しぶりに聞いた。確かにここから落ちたら擦過傷くらいで死にはしないだろう。ただ、のんびりとした調子で話されると(その友人の話し方はどことなくのんびりしている)、ひょっとしてルートを逸れている気もするが、なんとでもなる気がしてくる。

危ういトラバースを4、5度繰り返すと尾根が2つに分岐した場所に出た。右は藪に覆われ、左は急坂になっている。ルートがわからなくなった。

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ミミズ腫れトラバース


 

 

「あっ、繋がった!」

後ろから声がした。友人はスマホを手にしている。覗き込むと現在地が三角で示されていた。山地図のGPSがようやく機能したのだ。

「結構下りたなぁ」

よく見ると最初に辿っていた稜線から200mばかり下っていて、この下は沢のようだった。どう見ても踏み跡やテープが所々あったのは沢登りの人が付けたのかもしれない。

「沢筋から下りて林道に出れるかもしれんけど」

正直な話、沢下りは沢登りより怖い。沢はそもそも水の勢いで崩れた地形そのもので、道迷い遭難の最後は沢で滑落というケースが多いのもそのためだ。しかも私たちは舐めたハイキング気分で来ているので、ロープなんかも持ってはいない。

結局相談の結果、稜線に登り返すことにした。それにしてもGPSに救われるとは山屋として不本意である。というかベラベラしゃべっているのが悪かったのか。とにかく引き返さないという判断は誤りだったし、それによって面白い体験ができた。まあ最後は引き返したのだが。

 

稜線に登り返し、今度は水無山というところを目指した。

今度こそ迷わないように慎重に稜線を辿る。結局は高くなった稜線を忠実に辿るのが一番確実だ。水無山の標識は発見できなかった。ただ最後はGPSが山頂付近を指したところで下降路を探し、麓の集落まで続く尾根を下りた。

 翌週、LINEでその友人とやり取りをしたら、「楽しかった」ということだった。確かに楽しかった。道迷いで楽しいなんて登山者失格だろうか。ガチガチの安全登山が推奨される中で楽しみ方に自由がないと登山は面白くない気もする。