クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

愛とロマンの果て~礼文・愛とロマンのコース③

礼文島の夏は緑に覆われた美しい島である。

集落やバス道路は東の海岸に集中している一方で、西側には手つかずの自然が残っていて、愛とロマンのコースはこの西側を南北に縦断するようにルートが取られている。

 

私たちは西上泊の海岸から少し丘に上がり、しばらくなだらかな丘陵を歩くと、一転して道は樹林帯に入った。夏ということで笹が繁茂し、道を覆っている。トレースを見失うことはないものの、水たまりが至る所にできており、笹に付いた水滴が衣類を濡らす。

かつては半袖・短パンで歩いた若者がいたらしいが、たちまちびちゃびちゃ、擦り傷になるだろう。サポートタイツと山スカートの山ガールスタイルもいけない。

道標はあるし、トレースは明確ながら、笹が覆い被さっている。加えて、その日は前日までの雨で途中の川も増水。相方が徐々に遅れだした。

 

笹藪のトレースをようやく抜けると、ルートは海岸線に降って行った。地図を見ると海へと注ぐ川を渡ってから、海岸線を進み、宇遠内漁港を目指すらしい。

ところが、川の水量は多くて渡渉ポイントが見つからない。裸足になれば早いのだが、すでに足元のトランゴTRKはビチャビチャで、面倒だ。うだうだ考えた末、一番浅そうな海っぺりを選んだら、ドボンとはまって両足とも濡れてしまった。

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最後の渡渉



濡れたのはまあいい。暖かいから。

しかし、もっと問題なのはここから宇遠内に抜けられるかだった。波はひっきりなし海岸に押し寄せ、海岸から伸びるのは50mほどの絶壁。

波がルートを塞いでいたら泳ぐか絶壁を登るか引き返すしかない。おまけに絶壁に近づき過ぎると落石もありそうだ。

相方が追いついて来るまでしばし観察したが、この海岸線をなんとか突破するしかないようだ。あるいは最後に渡った川を遡行して東海岸まで抜けることも考えはしたものの、残り少ない食料と『山と高原地図』だけで突撃するのは無謀を通り越して自滅行為。とにかく波にさらわれないように歩くしかない。

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海岸線の突撃

「それにしても…」

と思った。これを「愛とロマンのコース」と名付けた人は凄い。

最後の海岸線はゴミがたくさん打ち上げられているばかりで、ルートであることすら分かりにくい。私は迷ったかと思って何度も地図と地形を確認した。途中に「8時間コース」と書かれた道標を見つけて、少し安心したものの、波でルートが消えていたらとか考えると、愛だのと言ってられないではないか。

昔の若者(私だって昔は若者だったのだが)は勇気があったのか。あるいは異性の前では突発的に勇気が出たのか。それともタフだったのか。

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不安の海岸渡渉


集落と言うにはあまりに寂しい、いくつかの小屋のような建物が見えた。宇遠内だ。

しかしその前には水量の多い滝が見える。おそらく普段なら大したことのない滝もここのところの雨で立派なものになっていた。海の波と滝の音で不安はピークに達していた。

 どうする、どうする。越えられないと本当に遭難になる。ここは電波が入るかも怪しい。

滝に近づくと気が抜けた。海岸はわずかに水が流れているに過ぎない。楽に越えられる。そして滝を越えればすぐに漁港だ。

 

 漁港には売店があり、おばさんが出てくると、「飲み物いる?200円」と声を掛けられたが、水だけはたくさん持っていたのでその申し出を断り、香深井のバス停を目指した。「ウニもあるよ1個1000円」とも言われたが、もうウニなんかのんびり堪能する余裕もない。

宇遠内に着いたとはいえ、ゴール地点の香深井は反対の東海岸にあり、山越えの必要があった。

 

 相方と2人、なかなかのスリルを味わった。

 これが10代後半、20代前半とかならこの後ももっと盛り上がったのだろうか。その日は体力以上に気疲れし、利尻で買ったタコとホタテのレトルトカレーをテントで食べると、シャワーも浴びずにパタリと寝てしまった。

愛とロマンには体力と気力が必要らしい。