5月の終わりに富士五湖の一つ、本栖湖へキャンプに行った。特に何かのアクティビティを目的とせず、食べて飲んでおしゃべりし、時折友人の息子の面倒を見るだけのまったりするものだった。
その夜、その友人の作ったチーズタッカルビをいただきながらの歓談。
「日本の酒税制度はクズです」
突然、その友人は少し激しい口調で吐き捨てた。日本人ではないながら、日本のビールを愛する彼である。
現在、ビール、発泡酒、第3のビールで酒税が分かれている。しかし、メーカーにとっては従来のビールよりビール風飲料の方が開発費がかかるため、製造コストが高いという。本物のビールよりも製造コストが高く利益が少ないビール風が消費者に受け入れられている。
「メーカーも消費者も誰も幸せにならない」
彼はいつにない口調で語った。アメリカ、ヨーロッパを中心に世界を股にかけている彼だけに非常に説得力があった。
酒税制度はその国の酒へのスタンスを示している。さらに、その国の歴史との向き合い方の一部を示す。
かなり表現が大げさになった。
「どこの制度が良いのですか?」
そう聞くと、友人は「アメリカとドイツ」と言う。
ドイツはビール大国だけあって、ビールの原材料・製法は細かく規定されている。日本の規定は税収確保のための細分化であるが、ドイツはビール文化の保護が主眼に置かれている。
同様にワインの産地の規定も厳密に決められている。日本では混合ワインはどちらの産地を名乗ってもいいことになっている。極端な話が、チリ産90%、フランス産10%のワインがフランス産と表記しても問題ない。
「日本酒の規定は米の産地、製造場所から細かいですけど」
と私が言うと、彼は「それは日本国内の問題だけだからです」と切って落とされた。国内市場の統制は行うが外来種は税金さえ取れればあとは知らないということだろう。
日本の酒税制度の基本姿勢は「酔っ払いに税金をかけること」である。基本的にアルコール度数に応じて税金をかけている。ビールだけはその例外で、アルコール度数が数パーセントのわりに異常に高い。税収確保のため金のなる木には税をかけている。
これが何を象徴しているのか。これは日本人の酒に対する姿勢なのだろう。個々の微妙な違いを楽しむのではなく、あくまで酔っぱらうことが目的という。
これが日本人全体という拡大しすぎだが、欧米ほど酒が文化として浸透していないようには感じる。
その夜、酒税制度に憤った友人のとっておきのワインをごちそうになった。アメリカ東海岸のワインだという。カリフォルニアワインに代表される西海岸は有名だが、東海岸ワインは初めてだ。
キャンプ用のステンレスタンブラーに少し大げさな音を立てて注ぎ入れてくれた。
味は、ヨーロッパワインにありがちな渋いクセはあまりなく、すっきりした辛口というのだろうか。
私にはまだ酒の味を語る資格はない。