クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

結婚式考

「今月結婚式二つも入ってますよー」

後輩が嘆いていた。嘆くのは無論ご祝儀等の経費が嵩むからである。

「いやー、全然回収しないで払うばかりです」

結婚式なんて人生でそう何回もしないから、回収しても一回きりが一般的だ。当然トータルでは払いの方が多いだろうが、神聖な式を回収と言うところがおかしい。おかしいが本当におかしいのは一回で年収が吹っ飛ぶくらいかかる結婚式のほうだろう。

金銭面からすると式をすれば回収できるが、最も安くつくのは友達を作らないことになる。まあそれはそれで寂しかろう。かく言う私が二十歳以降に出席したのは3回だ。一般的にはかなり少ないと思う。私の場合、たまたま式をする友達が少ないだけで、嫌われ者だったわけではないと信じたい。

 

高野秀行さんが結婚式の画一性が嫌だと書いていた。たった3回だが、確かに画一的だった。では、どう画一的だったかちょっと思い出してみた。

結婚式の最初は何らかの宗教儀式だ。私の経験した3回はなぜかプロテスタントだった(プロテスタントなら司祭を牧師、カトリックなら神父という)。式ではホテルのちっちゃいチャペルに押し込まれ、ほとんどが異教徒なのに聖歌を歌う。所在なさげに祭壇で佇む新郎のもとへ、ぎこちない新婦の父親が長いドレスでもっとぎこちない歩き方の新婦をいざなって登場する。そこへなぜかガタイの良いカタコトの牧師が出てきて、「アナタハコノ女性ヲ一生アイスルコトヲ誓イマスカ」と脅迫めいた質問を投げかける。新郎はノーとか言うとレスラーのような牧師に祭壇前でボディースラムを食らう可能性があるので、小さく「はい」と言う。牧師はそれ以上は追及せず今度は新婦に向き直り、同じ質問をする。新婦は可憐な花嫁を演じる女優のごとく、囁くように「はい」と言い、牧師は我得たりとばかりに「では誓いのキスを」と促す。

あのキスの瞬間に感動を盛り上げるためなのか、突然聖歌隊が歌いだしたりするのは何とも妙な感じがする。これも結婚式のパッケージングに含まれているのだろうが、キリスト教の本場はどうなのかと疑問に思う。

儀式が滞りなく終わり、造花やらで新郎新婦を送り出すとチャペルの前で一同記念撮影となる。別にこちらは撮られたくないが、あとで村八分にされても困るので黙って記念撮影。ようやく式の方が終わってやれやれである。

 

結婚式といえば披露宴の方が実はメインのような気がする。これぞ本末転倒なのだが、今の日本はなんだかそうなっているような気がする。

主催者側に言わせると披露宴のテーブル決めは結構大変らしい。1人見知らぬ人の中に入れられるとポツネンとする羽目に陥るので、それを回避するために苦慮するようだ。確かに厳粛な席で初対面の人を話すのはなかなか難しい。そうなったらひたすら料理と酒に挑むしかなさそうだ。

ところが、呼ばれて行って大変失礼な話だが、披露宴の料理は概してうまくない。洋式の結婚式なら自動的にフランス料理とかになるが、上品ではあるが正直うまいと思ったことはないのだ。

理由はいろいろ考えられるが、まず熱々というわけにいかない。出席者がそれなりの人数いるので、熱々にしないと食べられない料理は出ない。牛肉なら鉄板にでも乗っけてと思うのはこちらの勝手だが、そんな下品な料理は出せないので、上品に白皿に盛られた冷めた肉片が運ばれてくる。どうせなら刺身でも食べたいと思うが、あまり生ものは出てこない。一番おいしいのは焼き立てのパンかもしれないと腹の中で不遜にも思ったりする。

仕方がないので酒を飲むことになる。最初に食前酒を飲み、次にビールを頂戴し、シャンパンをもらい、次に焼酎かウィスキーなんか飲みだすともう何をしに来たのかわからなくなる。居酒屋のようにこってりした料理が出ないので余計に酔いが回る。

そんなこんなしているうちにも披露宴のスケジュールはどんどん進んでいく。最初に着替えた新郎新婦が登場し、司会のナレーションで馴れ初めの紹介なんかがある。そしてスライドで2人の軌跡を写真で流す。あれはどこでもやるが構成はどれも同じだ。同じ形過ぎて何も記憶に残っていない。私などたった3回なのに何が映っていたのかさっぱり覚えていない。

そのうち、新郎新婦のもとへテーブルごとで近づいて少し声をかけてみんなで写真を撮ったりする。悪ノリする連中はビール瓶を片手に新郎を酔いつぶそうとする。

 

直近呼ばれたのは社内婚だったのだが、あれは何とも言えない。 挨拶する人は新郎新婦とも社内のお偉方で、学生時代の友人連中は所在なく気の毒である。しかも社内という気安さから、先輩などからの「飲めよ!おら!」の雰囲気で満ち溢れ、新郎はたいてい酔いつぶれて記憶は宇宙の彼方。牧師のボディースラムを回避してもアルコール・ボディーブローでノックアウトとなる。

 新婦はまあ、ハロウィーンよろしくお色直しなんていうものがあり、それなりに楽しいのかもしれない。結婚式は新婦のためにあるのだ。一度引っ込んで再び派手なドレスとかで登場するわけだが、それはそれで困る。何が困るかと言うと、私は一眼レフなんか持って行ったりする。安物ではあるが、一応一眼を持っていくとそれなりに目立って、お色直しをした新婦を撮れと言われる。こっちは他人のドレス姿なんか興味もないし、もっと良い写真をプロが撮っているだろうからご遠慮申し上げたいのだが、周囲は容赦しない。今度呼ばれたらコンデジにしようと心に誓う。

そんなこんなでキャンドルサービスやら余興やらが続くのだが、披露宴のエンタメ性もこのくらいが限界である。昔、私の両親が披露宴をした際は、いろいろなオプションをことごとくカットしたらしい。ついにはキャンドルサービスをカットしようとしたところ、式場の担当の人から「これまで削ると写真撮るところなくなりますよ」と言われてこれだけは残した。逆説的に言うと結婚式は写真を撮る会と言えるし、会社員としてはお偉方を招いての戦略的交遊会とも言える。

 

こんな言い方をしているといい加減怒られそうだ。ましてやこんな私を招いてくれた方々に申し訳ない。申し訳ないと思いつつも茶化したくなるのが日本の結婚式事情なのだ。

昔、椎名誠さんらが遊び仲間の林政明さん(通称リンさん)が結婚した際は、仲間内で結婚披露キャンプを修善寺でやったらしい。どんな模様かはわからないがい、豪華絢爛、酒池肉林のホテル披露宴ではなく、キャンプというのがニクい。それと、会社組織のような利害関係のある仲間ではなく、純粋にお祝いをしたい遊び仲間が集合したというのに憧れる。山にドレスを持ち込んで結婚記念登山をする山屋もいるようだが、どうせやるならホテル以外のところでやりたいなあと思いながら、実際にやる目途もたっていない今日なのである。