クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

年俸・年収

床屋に行くと、理容師の2人が仕事の合間に(カットの途中だが)雑談していた。

「丸は自分の評価を知りたいって言ってたが、やっぱり年俸の高いところに行ったな」

「30億とか言ってるが本当は50億くらいかかってるんじゃないか?」

「これで活躍しなかったらなんて言われるかね」

広島・丸佳浩の巨人移籍というニュースである。年俸はもはや天文学的数値となっていて使う金という感じがしない。100万円単位なら「ちょっといい車が買える」、1000万円単位なら「千葉はやめて都内に一戸建てが買える」という実感を伴うのだが、億になると「ふーん」としか言いようがない。当の丸選手だって「想定より5億円高いから、別荘を10個くらい買うか」とはならないはずだ。

 

年収を聞かれるという体験は誰しもあることだろう。

私は最近クレジットカード会社に訊かれた。いつも使っているクレジットカード会社の登録が、最初に作ったときの「学生」のままになっているというのでコールセンターに電話して変更してもらった。

その際、コールセンターの女性はあくまで事務的に「現在のご職業は?」「お勤め先は?」「昨年度のご年収は?」と訊く。クレジットカード会社にとって最も重要なのは使った分を払ってくれるのかなので当然の質問と言えるのだが、「ご年収は?」と訊かれてわずかにうろたえる自分がいた。

恥ずかしながらこれまで私はあまり年収を意識していなかったのだ。なぜかと言えば、大学を卒業してから今日まで生活水準はあまり変わっていない。ひどい時にはアルバイトで生活費を稼ぐ苦学生並みの生活をしていた。

そのことを別に誇るわけではないし、だから今こんなにお金を貯められたのですと言って節約術を伝授しようというわけでもない。ただ、億単位の年俸の話を聞いて自分の愚かさ加減を自分で嗤ってみようと思ってこんな文章を書いている。

 

最も節約モードに入っていた時の私の支出はこんな具合だ。

1ヵ月あたり

・食料品・雑費:15000円

水道光熱費:5000円

・通信費:5000円

・交際費:10000円

・趣味・嗜好品:10000円

あと家賃なんかがあるのだが、これは会社の補助やらが絡むので記載するのは差し控える。まあなんやかんやで1ヵ月10万円も使わなかった。年間にしても100万円ちょっとで生活していたことになる。

「食費がこんなに低いわけがない!」という指摘があるかもしれないが、3食自炊でそれは今も変わらないので、これくらいで済む。「水道光熱費が低い!風呂入っているのか?」という指摘もあるかもしれない。内訳は水道1500円(2ヵ月に1回請求)、ガス1000円、電気2000円強といった具合。風呂は沸かさずシャワーのみだと信じられないくらいガスは使わないし、水道代は区割りの幅が大きいので1㎥でも2㎥でも金額は変わらない。

こう見ると交際費は慎ましい日常に比べて高いようだ。新入りの時は飲み会はあまり断らなかった。ただ、新入りは先輩社員に甘えて負けてもらっているので、金銭的にさほどのことはない。今は飲まない後輩ばかりなので、これ幸いと払いが少ない状況である。

あとは趣味の登山やらだが、電車で行ってテント泊なら10000円以内に収まる。その当時は月に1回くらいで、あとはひたすら近所をトレーニングと称して走り回っていただけなので、非常に経済的である。

あとクリーニング代をケチるためにいろいろな衣類は手洗いにし、ついでにトイレではトイレットペーパーをやめてインド式水洗いにするとさらに経済的になる。ここまでくると奇人変人の類に入るが、「やればやれないことはないのだ」と誰にも鼓舞されるわけでもないのにそんな生活を送っていた。

会社の先輩たちが「うちの会社の給料は全然上がらない」と嘆いていたが、その嘆きは私には全く響いてこなかった。

 

「今の年収っていくらくらい?」

クレジットカード会社の前にも他人から訊かれたことはある。会社の先輩の紹介で会った女性からだ。その時は正直に答えたが、「やはり学生と違って年収が気になるんだ」という感想を抱いた。その当時も誰にも頼まれていない耐乏生活を送っていたので、自分の年収なんて気にもしていなかったし、給料日も気にしていなかった。とりあえず月の収支はマイナスにならなければいいという気楽な気分だったが、年収を訊かれたことで、「ああ、年収で男女間の関係は決まるのか!」という思いにとらわれた。

後日紹介してくれた先輩にその話をすると「それはね、女性に胸の大きさを訊いて付き合うかどうかを決めるのと同じだよ!」と憤っていた。胸の大きさと年収の大きさは違うと思うのだが、その先輩としてみれば同じ会社にいる私が年収で振られるととなれば、「ふざけるな!」と思うのは当然である気もする。それにその先輩はお金に執着しない男気溢れる人だった。

結果的に言えば振られてしまうのだが、原因は年収ではないと思う。ただ、訊かれるだけでなんとなく引っかかってしまうのが「年収」というものだ。

 

丸選手を35億円の男と言うのもなんとなく違和感がある。それと同時に私も年収〇〇万円の男と言われるのにも違和感がある。人の価値は年収で測れないのだが、それでも金銭だけでしか評価をできないのが資本主義であり現代社会であると思ってしまう。