クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

雪中手袋考

「今年も冬が来た!雪が降るぞぉ!アイゼンだ!ピッケルだ!」

書いてはみたが最近冬の盛り上がりがなくなってきた。冬は寒くて休日に早起きして一駅歩いて始発に乗って山に行くのはどうも億劫だ。行くとそれなりに楽しいが、夏に比べると圧倒的に体力的・心理的・物理的に準備が多くなる。

物理的に多くなるのはもちろん寒いからで、ダウンジャケット・ハードシェル・スパッツ・手袋・厳冬期用シュラフなんかが増える。さらにアイゼン・ピッケルの金物系。落氷に備えてヘルメットもとなって、毎回頭を悩ませる。

その中で永遠のテーマは手袋。他の装備はだいたい金額に比例して良いものが手に入るが、手袋だけはまだ満足したものに出会えていない。私は冷え性で手袋こそ最重要装備なので、今回は厳冬期用手袋について少し書いてみたい。

 

1.モンベル・システムスリーグローブ

最初に買ったのはこれ。3月に自転車ツーリングをし、あまりに手が痛くて買った。そもそも使い方を間違っている。

九里徳泰さんが著書に紹介していた。フリース生地・防水メンブレン・オーバー生地の三層構造になっているのがウリ。掌が合成皮革だったのだが、グリップが非常に良かった。今はモデルチェンジして天然皮革に変わったが、余計に滑りやすくなったと思う。

当時はこれしか知らなかったので、2000mまでの雪山からゲレンデスキーまで何にでも使っていた。冷え性人間としては動いていれば良いが止まると冷たいといった具合。

6年前の本格雪山1年生時代に八ヶ岳天狗岳に登ったが、すごい寒波が来て、早朝はマイナス20度に達した。その時もこの手袋だったのだが、冷たいのを通り越して痛かった。さらにそれを通り越して感覚が徐々になくなってきた。何しろ1年生なのでこれが雪山の普通の状態だと思ってこのグローブに見切りをつけ、新たな手袋探しの旅が始まった。

 

2.ブラックダイヤモンド・ソロイストロブスター

システムスリーグローブがダメだと即断してもっと暖かい手袋探しを始めた。基本的に手袋は5本指よりミトンなどの表面積の少ない方が暖かい。寒気に触れる面積が多いほど保温性がなくなるからだ。そこでミトンを中心に探すことにした。

探すと意外にミトンを出しているメーカーは少ない。売っていてもミトンタイプはオーバー手袋のみで、インナーとの一体型タイプはほとんどない。

結局、雑誌に「コスパ最強」と書いてあったブラックダイヤモンド・ソロイスト・ロブスターにした。これは親指・人差し指・その他の3本指、中綿にはプリマロフトという合成綿で、格段に暖かい。さらにインナー手袋として薄手ウールの手袋をしてこれで最強という感じがする。ロブスターという名称も愛着を感じる。

少し難点を言うと掌の天然皮革だ。システムスリーグローブは合成皮革の表面に小さなイボイボが付いていたのだが、天然皮革はつるりとしていて、ピッケルも岩も掴むと滑る。歩き中心の登山なら良いが、細かい作業を行うテクニカルなルートには向かないようだ。

雪山登山の本を見ると、「雪山で手袋を外してはならない」「手袋をしたまま靴ひもを結べなくてはならない」という掟が書かれている。ツルツル滑る皮革のゴツいドラえもん状態の手でどうやって蝶結びをすればよいのだ。

雪山への不安は増すばかりである。

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3.IBSオリジナル

これはちょっと番外。しかし意外と役に立つ奴である。

買ったのは今はなきIBS石井スポーツ。ワゴンでたたき売りされていた。ゴア・ウィンドストッパーを使用していると書いてあるが、見た目はただのアクリル手袋。買ってみたら予想外に大きくて(店で試着しろよ)手とフィットしない。ただインナー手袋を着けて使うとちょうどよく、冬の低山ハイクに最適と判明した。

そういうわけで、冬山のアプローチでは最も活躍している手袋になっている。気温さえ高ければゴツゴツ手袋より使いやすいので、八ヶ岳阿弥陀岳北稜でもこれを使って岩場をこなした(無茶をする)。

原色赤なので何度も落としたがいまだ紛失していない。なくしてもショックを受けない程度の備品の方がなくさないのはなぜだろう。

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4.ショーワ・防寒テムレス

厳冬期手袋シェアランキングなんかあれば、今ナンバーワンではないだろうか。ここ数年でアイスクライマーを中心に大流行している手袋である。これはもともとは冷凍庫作業の業務用だが、完成度の高さからアイスクライミングの愛好家から通常の雪山登山者に広まっているまさに最強手袋と言える。

確か、アウトドアライターのホーボージュンさんが雑誌で紹介していた記憶がある。その後、世界に名を馳せる日本人クライマーなんかも使っていて「ほえー」と思っているうちに雪山のあちこちで見かけるようになった。

何しろ業務用なのでデザインもへったくれもない。ブルーのゴム手袋だ。封を開けるといきなりゴム臭い。しかし、指先は革命的と言えるくらい操作しやすい。これなら靴ひもも辛うじて結べそうだ。冷凍庫作業用なので低温でもゴムは硬化しない。しかも、1双2000円以下で買える。なくしても懐が痛まない。実際私は山頂で一瞬脱いだ途端に吹き飛ばされて片方をなくした。新品だったのでそれはそれでショックだったが。

欠点は臭いという以外では、店頭で売っていないこと。ホームセンターではなかなかない。山道具としては安いが、業務用としては高すぎるということか。あと雪山用の手袋と違って、裾を締める紐がないので、深雪帯で使う場合は雪が入らないように注意。

購入する場合はサイズ選びも要注意だ。私の場合'L'でちょうど。インナー手袋をしたら'LL'。ちなみに他のメーカーなら男性'M'で、平均より掌はやや小さい。誰かに借りて確かめるか、安いのでサイズ違いで買うのも手だ。

 

「手袋考」と書いたが、ただの紹介になって何ら考察を書いていないことに気が付いた。

日本人で唯一の14サミッター(8000m峰全山登頂者)竹内洋岳さんも「指は生えてこないですから」と言っているし、とにもかくにも慎重に選ばなくてはならない。

慎重に慎重に、今年も無事に冬を越せるように手の安全を期したい。