クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

オクさん、カミさん

「最近は事務職希望の男の子もいるんだって」

人事担当者の雑談が耳に入ってきた。「草食系」なんて言葉が出てきた頃なのでそれほど古い話ではない。話していた人もさほど年配ではない。しかし、事務は女性の仕事という固着した意識があるらしく、その人は「世の中変わったものだ」と言うかのように呆れたような表情をしていた。

男女雇用機会均等法の施行から30年以上経っても基本的な社会の仕組みや意識は変わってないらしい。女性の営業は増えたが、最初から事務希望という男性を受け入れられない人が一定数いる以上は「均等」にはなってない。

 

一昔前、一部のフェミニストが「妻を奥様と呼ぶのは女性を家庭に閉じ込める考えから来ている」と主張していた。それでは何と呼べばいいのかと言えば、妻なら夫との対義語だから良いのだそうだ。

ただ、夫婦という言葉は夫が先に立つから許せない、と難しいことを言う。「嫁」という言葉も家に括り付けられているからよろしくないとのこと。

しかし、他人の妻を呼ぶのには何を使えば良いのだろう。やはり「奥様」くらいしかない。夫については「旦那さん」くらいしか語彙が見つからない。

 

ある女性の先輩は夫のことを「相方」と呼んでいた。なるほどこれなら男女共用できるし、対等な表現だ。ただ、そのことを他の人に話すと「これから漫才するみたい」という反応が大半で、今でもそう呼んでいるかは謎である。

韓国人の友人は「嫁」と、多くの日本人と同様の呼び方だった。

ちなみに私の父は外で「うちの”wife”が」と話していたら母から禁止令が出た。気持ち悪いとのこと。

 

刑事コロンボ』では何かと「うちのカミさんが」という台詞が出てくる。

もちろん和訳時にそうしたわけだが、「カミさん」という訳はなかなか秀逸だ。日本人は古来から怖くて畏れ多いものに「カミ」を付ける。カミナリやオオカミなどが典型で、人の力ではどうにもならないものである。

妻を「おカミさん」と呼んだルーツは詳しく知らないが、敬意と恐懼の念は感じられる表現ではある。

ただ、みんながみんな「カミさん」と呼ぶことはないだろう。「おカミ」も「お内儀」と書くとまた嫁と同じ論争になりそうだ。もちろん「内」に閉じ込めているということで。

 

思うに言葉は歴史の蓄積なのだから男女同権用語には無理がある。男女同権の考え方そのものが現代のものであり、その現代にあっても完全ではないのだから。

男と女は違う。問題は互いを否定することで自分の側を肯定しようとしないことだ。言葉にしないでも互いを「カミさん」として尊重することが必要ではないかと思う。