クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

カナディアンロッキー紀行①ー遅刻恐怖症

カナダへ行った。事情があって、もう帰国しているはずなのにまだカナダにいる。それへんはまた後ほど。


何しろ10年以上も日本に閉じこもっていたので、なかなか海外へ行くのに見えない障壁がある。障壁の最たるものは言葉であり、いくら日本で洋食を食べ、洋服を着、洋書を読んでも拭えない。ただ私にとっての最大の壁は「乗り物」である。乗り物は乗るためのものだが、時として乗れないことがある。故障や災害なら仕方ない。しかし、乗り遅れは乗り手の問題。すなわち遅刻が原因である。


日本から海外へ行くのに使うのはもちろん飛行機で、今回はskyscannerを買ったAir Canada を使って成田からバンクーバーへ行くことにした。バンクーバーに「相方」がいるので、そこで合流してカナディアン・ロッキーを目指す。


私は遅刻恐怖症だ。ロアルド・ダールに”The Way up to Heaven”という作品がある。主人公の老婦人が遅刻恐怖症だという設定に妙な親近感を持っていた。

老婦人はパリに住む娘家族に会うため空港へ向かうのだが、どうやらとり残される夫は行ってほしくないらしい。老婦人はあたかも乗り遅れさせようとするかのような夫と、霧のためにフライトを延期される飛行機に怒りを爆発させる。ついには飛行場に泊まり込んで、ようやくパリ行きの飛行機に乗ることができた。


私も遅刻が怖いので、16:50の便だが、12:00には家を出て14:00過ぎに国際線カウンターに到着。カウンターは閑散としており、ニュースで見る正月やゴールデンウィークの喧騒はない。最近は国内線も乗らないので、初めてのeチケットにて発券。

がっ、発券しない。

「なぜだ?」

画面には「あなたのeTAが発見できませんでした」と冷たく表示される。eTAはカナダ渡航者に義務付けられている審査で、私は航空券の予約とともに終わらせたつもりだった。いや、終わっているはずだとポーチに入れた印刷用紙を手に取り、スタッフのお姉さんに尋ねる。

「正規のサイトからアクセスしない場合は少し時間がかかることがありますから」

落ち着いて話してくる。落ち着いて話すように教育されているのかもしれない。

eTAは取ったはずなんですが。メール画面はこれです」

「ちょっとパスポートを見せてください。ああ、番号を間違えてますね」

「げっ!」

「ちょっとサポートデスクに番号の変更が可能か確認します。このあたりでお待ちください」

あくまで落ち着いて答えてくれる。こちらはカナダ国から拒否されたようで全然落ち着かない。

一方で「番号間違うくらいのことはやらかす奴はいるわな。こんなことで入国させないわけないか」と自分のミスを棚に上げて落ち着こうとする。


結果的にはお姉さんかサポートデスクかの奮闘によって10分くらいで問題は解決され、無事保安検査も潜り抜け、出国審査では”Japan?OK!”と日本人のおじさんに元気良く送り出され、日本の地を発つことができた。

しかしこのドタバタ劇もごく序盤の出来事であり、これから予想だにしないことが起きる。


“The Way up to Heaven”の老婦人は無事にパリに着き、娘夫婦と孫に会うことができた。そして、自宅へ帰ると、郵便物は取り出されず、床には埃が溜まっている。

老婦人はその中のある光景を見て、ニヤリとする。そのニヤリの真相は語られていない。

なんにしても、遅刻の代償は大きいので、早めに家を出てよかった。よかったよかったと喜んでいたが、旅はそれだけでうまくいかないのだ。

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