クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

雲ノ平と『黒部の山賊』〜夏の雲ノ平山行⑤

雲ノ平は北アルプスの真ん中にぽっかり空いた台地である。

正確なところは知らないけど、黒部川の源流が台地の周囲を削り、台地が残ったのだろう。黒部川は雲ノ平の南側を奥の廊下と呼ばれる急峻な渓谷を作り、北面を流れる川と西の薬師沢で合流している。

川に囲まれ、さらにその周囲は3000m近い山が囲んでいる。城壁があって、さらに堀があるようなもので、雲ノ平は大型の生き物を隔絶する空間となっている。

伊藤正一『黒部の山賊』を読むと、彼が山賊と呼んだ山人たちも雲ノ平には興味を持たなかった。それは熊やカモシカなどの大型生物も岩魚もいないところに用がなかったからである。

それゆえ、雲ノ平は登山者のために残された秘境として現在に至っている。

黒部川の源流

今回、三俣小屋からは最短距離で雲ノ平に入るため、一度黒部川源流に下り、雲ノ平に登り返す。荷物が重いだけに疲れた。

しかし、後ろには鷲羽岳。少し行くと右手に水晶岳。さらに進むと正面に薬師岳が見え、左手には黒部五郎岳がお目見えする。場所によっては立山が見えるところもあり、これだけ山に囲まれたところは他にない。

黒岳とも呼ばれる水晶岳

雲ノ平に上がると木道が始まる。
よくぞまあ整備したものだというくらい長い木道が東から西につながっていて、整備されている方には本当に頭が下がる。

ここからは周囲の山を愛でつつ鼻歌で歩くことができる。もっとも霧がかかると何も見えなくなるので、お天気次第の場ともいえる。

テント場からは黒部五郎岳が見える

この日は時間的に余裕があるので、のんびりと雲ノ平のテント場へ。
テント場と小屋が30分くらいの距離にあるので、要注意。私たちは二手に分かれて、相方が小屋で受付、私が2人分の荷物運搬とテントの設営。

設営後、昼食を食べてもまだ2時くらいなので散歩に行く。雲ノ平には伊藤正一さんが名付けた「〇〇庭園」と名付けられたところがいくつもある。テント場から一番近いスイス庭園に行ってみる。

スイス庭園は雲ノ平の縁で水晶岳の向かいにある。なぜスイスかは不明だが、件の『黒部の山賊』を読むとテキトーということらしい。お客さんを呼ぶのにいい名前があった方がいい、ということのようだ。

日本アルプス」というのも通称が正式名称になったくらいだから、テキトーでも面白い方がいい。

そんなこんなで小屋のあたりまで散策して夕食を食べてこの日も8時には寝てしまった。