本を買った。
図書館も閉鎖していて、週休1日状態で山にも行けない。山と読書は私にとってはセットで、ここ10年くらいはどちらかが切れると心の枯渇が起きてしまう。
そのどちらが深刻かと言えば読書の方で、定期的に文字を入れておかないと、怒りや苛立ちとか落胆といった感情だけが金平糖のツノみたいに心を覆ってしまい、そのうち「あー!」とか「うー!」といった感嘆詞しか言えなくなりそうになる。感情を抑える以前に心理状態が説明不能になるのだ。
そんなわけで立て続けに本を買うに至った。
買った順番とは多少前後するが、まずはこれ。
ヤマケイ文庫 空へ-「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日
これは原題”INTO THIN
AIR”で、1996年のエヴェレスト大量遭難についてのノンフィクションだ。昨年カナダに行った時、台風の影響で帰れなくなり、
バンクーバーの本屋で買った。それはもちろん洋書なのだが、帰ってからバタバタしていて全然読めない。というか読んでもすぐに忘れてしまって、また最初から読んでを繰り返し。山の話なので単語も少し難しいのと、なによりも私に集中力がない。仕方がないので、ヤマケイ文庫から出ている日本語版『空へ』を買って併読することにした。
まだ最初だけど、日本語版もなかなかいい。洋書と日本語版を併読すると時々感じるのは直訳過ぎで不自然な日本語になっている部分で、それが嫌なこともあってあまり翻訳本を読まないのだが、これは遜色ない感じがする。翻訳者の海津さんがすごいのか、ジョン・クラカワーがすごいのか。
ちなみにジョンの綴りはJohnではなくJonである。
バンクーバーのIndigoという本屋の検索PCで見つからず、やきもきした。そんな苦労あって発見した本なのでぜひ最後まで読みたい。
洞窟ばか
- 作者:吉田 勝次
- 発売日: 2017/01/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
TBSの番組「クレイジージャーニー」にも出ていて、ぶっ飛んだ人だなぁと感じていたら相方がこの吉田勝次さんの本を買ってきた。この『オレはどうくつ探検家』は「どうくつ」が平仮名で表記されているように子ども向けの写真集で、彼女は子どもに見せてあげたいのだという。
しかしまあどうであろう。本当にこれを見てどうくつ探検に憧れたりしたら親のクレームを受けるのではないだろうか。写真で見ても穴の中というのは暗くて地味で危険が多そうだ。私は河原で焚火をしたり、山頂でおにぎりをほおばっている方がいいぞ。
それはともかく『洞窟ばか』は吉田さんの半生を
話し言葉で書いたものだ。ケンカといじめ明け暮れた少年時代。有り余るエネルギーを最初は登山にぶつけるが、洞窟と出会うやこれに人生を賭けてしまう。
本能のままにやりたいことを貫いてきた人生はよくわかった。少し惜しいのは文章表現が平易ではあるものの、上手とは言えないこと。本職が物書きではないので仕方ないけど、書き方でもっと面白くなる気がする。
同じくぶっ飛んだ本という意味では宮城公博『外道クライマー』だが、こちらは文章も上手。ただぶっ飛び方は『洞窟ばか』の方が上手かな。
角幡さんの本は好きで出るたびに買っている。本業のハードボイルド・ノンフィクションは文庫本で読みたいので、作者にはありがたくない読者だが、文庫化を心待ちにしている。今回は活字欲に負けてエッセイを買ってしまった。
「ペネロペ」とは角幡さんの娘のことでもちろん本名ではない。生まれた時から事あるごとに可愛いとする娘の愛称だ。本書は溺愛する娘をひたすら哲学的に、理屈っぽく考察した文章である。
角幡さんの本は『空白の五マイル』、『アグルーカの行方』に代表される本格ノンフィクションと、『探検家の憂鬱』、『探検家の事情』など軽めのエッセイ本と大別されるが、今回は理屈っぽいエッセイ本という新ジャンルを出してきた。
まだ最後まで読んでいないけど、途中少しくどく感じる部分がある。ただ、終盤になると慣れてくる。この不思議な読者の巻き込み方が角幡流なんだろう。
ちなみに山の友人に聞けば山岳会の男性諸氏には宮城公博『外道クライマー』が人気で、女子には
角幡唯介が人気だそうだ。山女子の中で角幡さんは「男前」なんだという。 本の売れ行きにも「男前」が影響するようだ。