硫黄山登山道は藪の覆われた道を進み、涸れ沢を詰め、稜線に出るルートとなっている。ようやく稜線に出ると緑と白い斜面の山が見えてきた。硫黄山は硫黄が噴出することから名づけられたとおり火山である。知床と一口に行っても北部の硫黄山付近は火山岩と砂礫が多く、北部は灌木に覆われている。植生が南北で異なるのは八ヶ岳に似ている。
宇登呂9:30のバスに乗り、硫黄山登山口10:30、稜線に出た時には15:00になっていた。硫黄山の頂上にそれほどこだわりのないわれわれは稜線から頂上までのピストンはパスして二つ池のテント場を目指すことにした。
知床の山中には4つの指定幕営地がある。北から第一火口、二つ池、三ツ峰、羅臼平の4ヶ所で、他の山と異なるのは熊対策のフードコンテナがある。ヒグマに襲われたことがないのでよくわからないが、とにかく言えることは指定地以外で幕営しない方がいいということだ。
一泊二日で下山する予定だったわれわれは初日に二つ池まで行っておきたかった。
先をいそぐわれわれは硫黄山を通り過ぎ、灌木帯を進み、稜線に突き出た岩稜の間を通って細かい砂礫の稜線を歩いた。ここで前に大きな岩壁立ちふさがった。
ここでわれわれは判断を誤った。
一つは現在地。地図で私は南岳の近辺を歩いているものと思い込んできた。しかし、後からわかったのは眼前の岩壁は南岳の北にある知円別岳で、ルートは頂上を通らず、直下の東側を通る。
二つ目の判断間違いはルート。頂上を東に巻くルートはサインもなく、岩の落ちたただの斜面に見える。時刻は16時。日没が近づく中で稜線上をうろうろとサインを探す。先に進むルートが見えない以上は近場の第一火口の幕営地にテントを張るしかない。
ふと斜面から下を覗き込むと下に2つの白い人工物が見えた。
2つの人工物と見られるものは砂と岩の斜面下に見える。しかし、すでに南岳の周辺にいると勘違いしている私にはそれが登山者のためのものか森林整備等のものかわからない。
日が傾く中、私は決断した。斜面は落石の危険性はあるものの傾斜は大きくない。この斜面を下って人工物を確かめよう。稜線から見ると下には1人の登山者の姿も見えた。ルートは稜線ではなく下なのかもしれない。
斜面の端をわれわれは慎重に下った。真ん中は落石の危険性があるのでできる限り灌木帯に近くを歩く。怖がりの相方の歩みは遅いがそれでも30分ほどで斜面の下に着いた。
果たして2つの白い人工物は熊対策のフードコンテナだった。
すでに幕営準備に入っていた登山者の方に訊くと、そこが第一火口の幕営場で、私はここで自分の勘違いに気づいた。
こころならずも来てしまった第一火口の幕営場は素晴らしいところだった。
幕営地は台地になっていて、奥では鹿が遊んでいる。水場は雪渓で浄水しなくてはならないものの十分な量の水が流れている。
もし二つ池にこだわって進めばわれわれの足ではかなり危険なことになっていたかもしれない。結果的にはいろいろな判断ミスによるものだったが、最も良いところで幕営できたとほっと胸をなでおろしていた。