クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

なぜ山に登るのか~映画「岳」~

ほろ苦い思い出がある。

10年前、先輩の女性社員から大学時代の「友人」という人を紹介された。紹介してくれた先輩が165cmくらいの大柄なのに対して160cm弱の小柄な女性で、山が好きということだった。山好きならば山の映画でも見ようかと誘ったのが、この映画「岳」である。

行ったのは品川プリンスホテル横の映画館で、映画を見た後にお昼ご飯をレストランでもといういたって普通のデートを考えたわけだ。

しかし、映画の後の会話は恐ろしく盛り上がらなかった。とにかく酷い映画だったのだ。

岳 -ガク-

岳 -ガク-

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

どのように酷いかは挙げればきりがない。

例えば冒頭シーン。残雪期だろう。クランポンを付けた登山者が頂上を目指している。ところが登山者は「ふう、重い」と言ってそのクランポンを外して、バックパックに括り付けてツボ足で歩き出すのである。判断ミスとか言うレベルではない。なんのためにクランポンを着けているかわからん奴が積雪期に登っちゃいかんのである。

そして案の定滑落するのである。「滑落して怪我して、主人公・島崎三歩が助けにくるんだろうな」と予想していたら、なんとその登山者は巨大なクレバスに落ちてしまった。氷河のない日本のどこにそんなクレバスがあるのか全くわからない。

 

そんなこんなのツッコミをしているとキリがなく、中でもクライミング中に頭部に落石を受けて大学生が死ぬシーンでは、

①頭部に重傷を負った人をむやみに動かしてはならない。(女性救助隊員・久美が背負って下りようとする)

②グッタリしたからといって、死んだと断定してはならない。(なぜか死亡したということでその場の全員が了解してしまったが、医師でない限り死亡診断書は書けないし、勝手に決めつけてはならない)

③遺体(死亡したかどうかも確定されていないのだが)を崖から投げ捨てるなんてあり得ない。(遺体をモノ扱いしてよいはずがない。モノであってもむやみ落としたら、下にいるクライマーに直撃するかもしれない。おまけに検死だってまだなのだ)

おまけに新米山岳救助隊員とされる久美はこの岩場をソロで登っていたなんて、どう考えても新米にできることではない。日本国内で、ソロクライミング用の教本なんて売ってないし。ただ、どうやってビレイを取っているのか映画ではさっぱりわからんので、そこまでツッコミを入れるのは野暮か。

 

そんなツッコミを入れながら久しぶりにこの映画をDVDで見たのだった。

結局のところ、この映画を作った監督は「なぜ山に登るのか」を最後まで理解しなかったのだろう。小栗旬演じる島崎三歩に「山で捨ててはいけないものは、ゴミと命」などと言わせるシーンがあり、これこそ登山を理解していないことを顕著に表すところだ。

登山、特に穂高のような山に登るのは、「危険なのに登る」のではなく「危険だから登る」のである。危険だからこそ、登るために鍛え、経験を積み、恐れ、それでも向かうのであって、山で死にたくないのなら行かなければよい。

クライマー・山野井泰史が著書にこう書いている。「不死身なら登らない」

ただ山を怖いところという描き方を目指した映画なので、細かいツッコミもあるけど、構想の段階で破綻していた。山バージョンの「海猿」を目指したのか、やることがめちゃくちゃなのに演技は情熱的。俳優はいい人もいるので甚だ残念だ。

 

さて、この映画を劇場で一緒に見た女性とはズルズルと3ヶ月ほど会ったりしたものの結局うまくいかなかった。

私も当初の構想段階で破綻していたのだ。