クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

装備間違い

凍傷になったので新しい冬用の手袋を新宿で見てきた。

新宿にはMt.石井スポーツが西口と東側のビックロの中にあるし、L-BREATHとモンベルの直営店が南口にあるので、ファミリーキャンプからアルパインライミングまで網羅できる。東京都はオソロシイところだ。

しかしながら、時折ディスプレイされているマネキン君に間違いがあったりして、「おいおい大丈夫かい?」ということがある。よくあるのは冬だからということでやたらに分厚いフリースを着ているケース。パタゴニアで言えばR2、モンベルで言えばクリマエアくらいの毛足の長いフリースで、ムックかモンスターズインクみたいにモコモコした手触りだ。「それ着て登ると暑いよー」と言いたくなる。暑いだけならいいのだけど、汗をかいて冷えると猛烈に寒い。というか危ない。

物言わぬマネキン君は知らぬ間に危機的状況になっているのだ。

 

登山用品店が他のアパレルショップと違うのは、ディスプレイするものが決して売りたいもの、売れるものではないケースがあることだ。例えば8000m峰や極地探検スタイルのダウンスーツを着たマネキンがいても、別にそれがジャカジャカ売れることなど期待はされていない。単にその店が登山に詳しいとか、ハイキングからエクストリームなアクティビティ用のウェアまでいろいろ扱っていることがわかればいいのである。ただ、取扱商品の限界からか、時折、肝心な部分が抜けているケースも見受けられる。

十数年前、大阪のショッピングモールに行き、いくつかのアウトドアショップをはしごした。当時できたばかりのモールで、THE NORTH FACEモンベル、Colombiaなどいろいろあって楽しい。目的は冬用手袋を買うことだったが(この時も冬用手袋をさがしていたのだ)、関係のないところも一通り巡った。

その中のモンベルを覗きに行くと、表に雄々しくダウンスーツを着たマネキン君がいる。極地用ダウンスーツを販売しているメーカーは少ない。ヒマラヤではThe NORTH FACEのシェアが高いそうで、あとはミレーやヴァランドレなどのヨーロッパメーカーで、日本ブランドではモンベルが唯一ではないだろうか。その唯一のメーカーがヒマラヤか南極かわからないが、世界の極地に挑んでいるわけである。

しかし、足元をよく見る少し私は冷めてしまった。そのマネキン君が履いていたのは厳冬期用の登山靴ではあった。しかし、それは国内の3000m峰に対応するようなモデルで、8000m峰に挑むようなダウンスーツとはかなりアンバランスな姿だ。当時、モンベルでは、厳冬期用登山靴は自社製品しか置いてなかった。今ならASOLOがあるが、当時は輸入代理店になる前だ。まあ50年前はそれより粗末な装備だったから登れる人は登れるだろうけど、他に8000m用の専用ブーツがあるのだから現実には使わないだろうな。

それにしてもちょっと臨場感のないディスプレイは残念だった。

 

今回、某店のディスプレイでアイスクライミングの装備を身につけているものがあった。カリマーのウェアに身を包み、アイス専用のアックスを両手に掲げている。上から下へと視線を移すと足元に目が行った。冬季用ブーツはLA SPORTIVAのネパール EVOという定番モデル。アイスをやるのに何の問題もない。

しかし、そのブーツの下に装着しているクランポンはどうだ。グリベルのニューマチック。私が使用しているのと同じだ。

「ん?同じ?」

私はアイスクライミングをしないため、使っているクランポンは縦走用であって、氷壁を登るためのものを選んでいない。それはいわゆるセミワンタッチという形で、ビンディングが踵にのみ付いていて、つま先はプラスチックで押さえるだけになっている。ブーツに固定する役割はナイロン製の紐が担っている。

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わりと定番の商品ではあるのだが、アイスクライミングには向かない。つま先の爪は氷壁を登るより、岩に乗るのに向くように、横向き付いているし、このセミワンタッチは結構外れる。冗談抜きに、私はこれを使って歩いていて、時たま緩んだり外れたりした。怖い怖い。そのためしょっちゅう紐が緩んでいないか気にするのが習慣となっている。

さて、これでアイスクライミングをしたらどうなるか。氷壁に蹴りこんでいるうちに落とすだろう。私がちょっと傾斜の急な稜線で蹴りこむだけで緩むのだ。ダブルアックスで両手のふさがった壁の中では紐を締め直すなどできず、どこかでポロリ。下でビレイしている人に当たらなければいいが。まあその前にそのクライマーが落ちるかもしれない。

そんな意地の悪いことを考えながらディスプレイを見るのも山に行けない憂さ晴らしとしている今日である。