時折、唐突に遠くの山というか人のいない山に行きたくなる。
遠いという意味では屋久島の宮之浦岳は遠い。羽田空港から鹿児島空港経由で屋久島空港へ。そこからアプローチしても登頂は次の日。本州からの距離も遠いし、海岸からの山頂までの距離もそこそこある。海からだと標高差は1900mにも達する。
そして冬には積雪もそこそこ。私が行った3月には雹が降った。
百名山の中で最も遠いのは黒部五郎岳だという。確かに、最短と思われる富山・折立からでも頂上まで1日はかかる。下山やテント場を考えれば一泊は必要。
赤木岳などのピークを越えるので体感的にも遠い。
ただ、いずれも百名山になったことで、言い方は悪いが手垢にまみれた山という感じがある。
道標は多く、場所によっては距離や「頂上まであと1時間」てな表示もある。遠いけど、心理的な距離は近い山と言える。
遠くの山ということで、3年前に登ったのが赤牛岳だった。
別に赤牛岳を目指したわけでなく、七倉から船窪小屋を越えて、黒部湖に行き、黒部の最深部を通って上高地まで行く途中にあったという方が正確だ。長くて辛いという奥黒部から南に伸びる読売新道に興味があった。
この時は四泊以上はするということで、食料満載、その他の装備はとにかく軽量化してスタートした。バックパックはパタゴニア・アセンジョニスト45。昨日紹介したバックパック群の半分くらいしか容量はない。
読売新道は4時半にスタートしたものの、延々と登り坂でバックパックがやけに重く感じる。
本当に苦行である。
苦行の果て、頂上に着くと五光が差していたと言いたいところだが、この時は赤牛岳直前に霧に巻かれ、何も見えない。写真は頂上到着の前に一瞬晴れた時のもので、これから先は白い世界だった。
せっかく持参した一眼レフも使えず、頂上は一瞬でスルーして水晶岳に向かった。
なんとまあ、遠くに向かっていいところなしのようだが、赤牛岳は黒部湖から辿り、人は少なく、周りは山だらけ(展望はなかったけど、晴れていたら山ばかりだろう)という意味でベストな山だった。
南アルプスはどの山に登っても大抵麓の街が見える。北アルプスでも街の灯がまるで見えないというところはなかなかない。
赤牛岳は、北アルプス最奥、将軍家の大奥みたいなポジションながら、水晶岳のように百名山ではないという環境により、来訪者は少なく、玄人好みの味わいの山である。
本当は赤牛岳から西尾根を下降して、薬師見平に行く旅でもすれば完璧なんだろう。私にそんな実力はないけど。
いずれにしても、また行きたい山の一つとして五名山に挙げておきたい。