クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

雲ノ平で捻挫の1日〜夏の雲ノ平山行⑦

今回の山行での第一目標は高天原温泉だった。その目標を達したのだからめでたしめでたし。あとは薬師岳を登ってから下山するかと呑気に考えていた。

しかし、その呑気を打ち崩したのは高天原温泉に行くときの捻挫。高天原に下る際に泥で滑って転んだ。ピリッとした痛みが走ったわけだが、温泉に入り、雲ノ平に登り返しているうちに、痛みは徐々に鋭いものになってきた。

これまでの捻挫というのは足首をある一定の方向に曲げると痛いというものだった。だから仮に痛めても気を付ければなんとか歩くことはできる。

しかし、今回は違った。足首を前後どちらに曲げても痛い。そのうち地面に足を付けても痛い。ピリッからビリビリになり、これはどうも本格的に痛めたらしい。

それでもここは北アルプスの秘境。タクシーを呼ぶわけにいかない。ノロノロと雲ノ平まで500mを登り返す。途中から見栄もなにもなく「いてて!」と言いながら歩く。

3時間以上かけてようやくテントに戻った。

こうなると翌日からの行動を考えなくてはならない。薬師岳に行くなんて到底無理。その前に歩けるのかという感じもする。

最終的に雲ノ平で1日様子を見るという結論となった。食料にはまだかなりの余裕がある。

 

それから約1日半。私はトイレに立つ以外、ずっとテントで過ごした。

山にいながらの引きこもり。痛めた当初はトイレに続く木道を歩くだけで痛い。もう寝ているしかないのだ。

足首に湿布を貼って本を読む。

相方の持ってきた北村薫宮部みゆき選の名作短編集が面白い。特に半村良『隣の宇宙人』は創作落語としてぜひとも聞きたい。ただ、1日寝ているのはそれはそれで辛くなってくる。

相方は祖父岳に登ったり、雷鳥を見つけて写真を撮ったりと楽しんだようだ。

絶対安静と言うことで、私は日がな霧に包まれた黒部五郎岳を眺めていた。