クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

イチロー先生の教えとマツコの教え

SMBC日興証券のCMで「教えてイチロー先生」というシリーズがある。

うちにはテレビがないので、ずいぶん前からあるのかもしれないが、つい最近知った。見てみると小学生から中高年まで幅広い年齢層の人たちの質問に、イチローが答えるというものだ。

質問はかなり厳選していると思われるが、イチローの答えは、自分の言葉で明瞭に語られていてなかなかいい。

 

男の子の質問。

「ぼくは食べることが好きで、将来飲食店をやりたいと思っています。今はお寿司屋さんを開きたいと思いますが、どう思いますか?」

イチロー先生の答え。

「好きなことを職業にするのはすばらしいことだと思う。でも、職業になった瞬間、好きだったことが楽しめなくなる。それがプロになることだと思う」

18歳から28年間を「プロ」として過ごしただけに他の人に語れない重みがある。

 

女の子からの質問。

「私はどうしても後ろ向きな考えになってしまいます。どうしても前向きにならなければならないですか?」

イチロー先生の答え。

「どうしても前向きにならなくてもいいと思う。後ろ向きな時があってもいい」

どの質問に対する答えも、真摯に、そして自分の言葉で語られている。

 

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イチローを見ていて感じるのは自分への圧倒的な信頼だ。身体一つで勝負するアスリートが自分の能力を信じて実績を積み上げてきた。それが今をもって人々が教えを請いたい理由なのだろう。

しかし、実績のみにひれ伏して話を聞きたいわけではない。当然、話を聞いている誰もが「イチロー」であるわけではなく、常に自信のなさと葛藤している。

聞き手がほしいのは彼の持つ自信の欠片、結晶をそっと自分の皮袋に持ち帰ることなのではないかと思う。

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今さらながらマツコ・デラックスの話も面白い。これまたテレビがないので、滅多にお目にかからないのだが。

何が面白いのかと言えば、歯に衣着せぬ発言である。ただ、これはイチローとまた違って、「あたしなんかが言うのもナンだけど」という若干の卑屈さがある。言い換えれば「自信はないけど言っちゃう」という言葉が聞き手に心地よさを与えているのだろう。

イチローの言葉が結晶なら、マツコの言葉は柔らかいひざ掛けみたいなものか。身体を覆うほどではないけれど、ほんのり暖かさを与えてくれる。

 

自信のある人、ない人の言葉が時折聞きたくなるのは、どうやらみんな疲れているらしい。