クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

雨の森、雪の森〜屋久島放浪記②

屋久島では月に35日雨が降るという。

これがフィクションであることは小学生でもわかるが、実際に行ってみると嘘でもないように思える。雨の回数がとにかく多い。降ったと思えば止み、止んだと思ったら降る。

今回は、というか今回も、雨に翻弄されることになった。

 

1日目は淀川登山口から入山。登山口から1時間弱で着く淀川避難小屋に泊まる。

表に新型コロナのため、緊急時以外は使わないようにと貼り紙があった。まあ結果的に我々以外誰も来なかったのでお許しを。

初日の夜から雨。翌朝もしとしと降っている。

まあ増水したりするほどではない。この後、楽観的観測が徐々に崩れていくことを知る由もなかった。

出発直後に逆へ進む(登山口方向に歩く)を経て、黒味岳との分岐で若い登山者に出会った。彼が今回の縦走登山で唯一会ったヒト。黄色いジャケットに手には500mlのペットボトル。足元は柔らかそうなミッドカットの登山靴。ちょっと「おいおい」という感じもするが、素早い動きで登っている。

こっちはヨタヨタだ。とにかく指先が冷たい。標高が上がると周囲は雪なのに、降るのは雨。そのうち手袋が濡れてきた。上下のレインウェアに登山用ロングスパッツを付け、手には防寒テムレス。完全防備のはずがそのうち袖口から入った水で手先が濡れ、どこから入ったか靴の中も濡れてきた。気が付くと尻も冷たい。無事なのは上半身のみ。

 

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宮之浦岳の直下で先ほどのお兄さんとすれ違う。彼はバイクでアプローチしたが、ザックが濡れたため、空身で登ったのだという。余計危ない気もするが。

宮之浦岳は霧に覆われ、展望はなし。晴れていたらを想像するが、相方はもはやその余裕もないらしい。早く新高塚小屋にたどり着かないと寒さで身体が動かなくなる。

宮之浦岳から北面は雪が多い。最初は新雪だったのが、雨で下が空洞になったミニ雪渓みたいな雪面に変わっていく。油断すると踏み抜いてしまうのだ。

ずぼりずぼり。踏み抜き、軽い崩落。当然転ぶ。

木道が危ない。一度豪快に転び、手首を捻挫。翌日まで力が入らなかった。

 その他、尻や腰など何か所もぶつける。おまけに手先は冷たくて軽い凍傷気味。ボロボロである。

 

さらにルートが時折わからなくなった。

無雪期は明瞭なはずが、雪に覆われ、シャクナゲの木がルートを塞ぐ。地面が雪で30cm以上上がっているので、木の下をくぐることができず、シャクナゲを押しのけて進むしかない。

シャクナゲの林を通り抜けると、自分たちがルート上にいるのかわからなくなっていた。焦るが、地図の等高線くらいでは判断できない。日が暮れようとしていた。

相方が「ピンクリボン!」と叫んだ。わずか10m先くらいに心細くリボンが垂れている。枝を押しのけ、進むとどうやらルートだ。わずか10メートルほど逸れていたらしい。

そうして新高塚小屋に着いた時には、出発から10時間以上経っていた。

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