卒業シーズンである。駅で朝帰りと見られる学生たちがいた。
「コロナの時期に」
と眉をひそめる人もいるかもしれないが、大目に見よう。彼らには二度と来ない卒業なのだから。
学生時代の最大の思いではやはり旅行ということになる。自転車と青春18きっぷでの旅。いかにも学生らしい。
別に貧乏である必要はないし、そこまで金に困っていたわけでもないのに、当時の私は貧乏旅行にこだわった。学生でラグジュアリーな旅行をするわけにいかないでしょうと。
旅を貧乏にするとどうなるか。
優先すべきものを決めなくてはならない。宿にするかテントか野宿か。風呂は何日に一度(毎日という選択肢を捨てることもある)。交通手段は。
旅で優先すべき点をはっきりしなくてはならない。持ち物はトランク一杯というわけにいくまい。バックパックということになるだろう。
以前、ラジオで結婚離婚カウンセラーの女性が言っていた。
「結婚前に相性を知りたかったら貧乏旅行に行けばいいんです。2人で3万円とか決めて行くんです」
所持金が限られると価値観が如実に現れる。
私の場合、宿は寝るだけ、食を優先する。食も毎回美食というわけでなく、ここぞの名物だけは食べたいし、銘酒があれば堪能したい。
昨年の北海道旅では9泊中5泊がテント、4泊が宿で、宿は安いビジネスホテルだった。昨月の屋久島は民宿。その分を名物料理に回した。
人生すべてを手に入れられるわけでないと気づくときに人間としての真価が問われる。
大人は「子どもの無限の可能性」と言って恍惚とした顔になるが、医者で弁護士で歌手になれるわけがない。人生では捨てる選択肢の方が多いのだ。
何を捨てて何を取るのか。それが貧乏旅行の醍醐味であり、ちょっとだけ大人になるためのステップだと思う。