クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

谷川岳の雲の中に~白毛門山行

久しぶりに週末の天気がいいということで、発作的に白毛門に行ってきた。

白毛門は谷川岳の東にある群馬県の山で標高は1720m。奥にある朝日岳の前衛峰のように見える。

私も昨年の秋に谷川岳の馬蹄型縦走をやった時は、白毛門はパパっとパスして朝日岳に向かっている。

 

白毛門の良いところは谷川岳のちょうど向かいにあって、東面の岩壁、有名な一ノ倉沢が望めるところである。

一ノ倉沢は戦後間もない1950年代、60年代には関東のクライマーが初登攀競争を繰り広げた日本山岳界を代表する岩壁だった。『狼は帰らず』の森田勝が名を馳せたのも冬季の滝沢第三スラブと呼ばれる一ノ倉のルートである。

私たちは始発の列車に乗り、かなりの乗り換えを重ねて上越線モグラ駅、土合で下車すると、即座に土合橋近くの白毛門登山口から入山した。

 

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4月、融雪も進み、1200mくらいまでは雪がところどころという感じである。先々週の会津駒ヶ岳と比較するとかなり少ない。福島と群馬と言う違いだろうか。

樹林帯から抜けるといよいよ積雪期登山らしくなり、今年初めてクランポンを着ける。雪が締まっているので、刃が心地よく刺さる。ただ、ところどころ岩場があるので、ガリガリと嫌な音をさせて登った。

木々の遮りがなくなるといよいよ谷川岳の岩壁が姿を現す。風はないが頂上は雲に覆われていて、頭だけはなぜか見えない。

昨年、谷川岳の慰霊塔を見たらあまりの死者の多さにびっくりした。特に昭和20年、30年代は年間で30人くらいずつの名が刻まれている。

以前聞いた話だが、ある山岳ガイドの人が若いころ、一ノ倉の取り付き付近でテントを張って寝ていたところ、夜中に不思議な足音を聞いたという。最初はカラビナと思われる金属音が聞こえたことから、クライマーかと思ったという。しかし、もうその時は深夜。登る時間ではない。

そしてその足音はテントに近づき、通気口付近で止まる。明らかに中をうかがっているようだった。そのガイドはとても声にならず、寝たままで朝を迎えた。

翌朝その話を隣で寝ていた相棒にしたところ、彼も同じ足音を聞いたという。しかし、テントの周囲にはあるべき足跡が一切なかった。

 

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私たちが白毛門に登った日は風もなく、亡霊も出そうにない。

ただ、谷川岳だけはなかなか雲が切れなかった。

 

白毛門の頂上手前にはちょっとした難所がある。

写真の上部、人が小さく映っているあたりだが、斜度は35度くらい。雪がグサグサで崩れやすい。実際、チェーンスパイクのみで登っていた人が滑り落ちてきた。この時期は前爪付のクランポンが必須である。

登りきるとなだらかな稜線が頂上まで続いている。

その頃には谷川岳にかかっていた雲はほとんど消えていた。