クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

ニシンとハッカクの味~北海道を巡る食旅⑤

北海道には鰊御殿というものがあるらしい。もともとは積丹の方にあり、現在は小樽に移築されているそうだ。明治、大正とニシンの豊漁によって財を成し、それによって北海道に立派な家を建てた人々は多いという。ニシンは食うだけでなく肥料にしたという。

知床を硫黄山から3日かけて羅臼岳に登頂し、羅臼に下山したわれわれはまず温泉に入り、食料の調達に出かけた。バックパックの中にはパスタが1食分あったものの、炭水化物だけの食事にもう飽きていたのだ。

羅臼岳から下山してテントを張った羅臼野営場から羅臼の市街までは5kmもあり、下山後の足には少々酷だったが、海沿いにある道の駅まで歩いて行った。

そこでは主に干物、一夜干しが売られており、昨年小樽で心証を良くしたハッカクと北海道名物ニシンの一夜干しを購入した。

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ハッカクの一夜干し

キャンプ場に戻ると、さっそく網を取り出して戦利品を炙ることにする。

まずはハッカク。ハッカクは鱗のトゲトゲした魚で鰭が大きい。昨年食べた刺身はこんな感じ。

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刺身のハッカク

白身ながら脂が乗っている。久しぶりに小型ストーブ用の網を持って行ったが、脂が滴ってたちまちガス缶が汚れた。

食べてみると脂が決してしつこくなく上品な味わいである。

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ニシンの一夜干し

次にニシン。なんと1本98円である。

全長30cmくらいの分厚い身で、網に載せてあぶるとたちまち脂が滴り落ちた。北海道物産展で売っている高級ホッケでもこんなことはない。

京都の大学に行っていた時代、学生食堂で「ニシンそば」があったが、あのパサパサした感じはまったくない。魚としての臭みはあるものの、トロを炙ったくらいの脂である。

テント場の気温は15℃くらいか。虫はさほど多くはないので、芝生にサーマレストのマットを敷いてその上に胡坐をかき、熱々のニシンをつつきながらビールを飲む。ふわふわと日中の疲れが身体に落ちてきて、周囲のテントからの会話がポツポツと聞こえてくる。

羅臼野営場には15年前に来ていて、その時は自転車だった。北海道を横断すると意気込みだけはあったが、たった1人の寂しい夕食で何を食べたのかも思い出せない。その時とキャンプ場の景色はあまり変わったと思えないが、ずいぶん自分自身は変わったと思いながら徐々に夜の帳が落ちていった。