クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

小熊とオコジョとの遭遇〜夏の雲ノ平山行②

財布忘れとかテント泊のリサーチ不足とかはさて置いて、ノコノコ歩き出した私たちがまず出会ったのは熊だった。

去年、知床に行った時はヒグマが怖いので、バックパックに鈴を付け、ガランガランと歩いた。ただ、今回はごまんと登山者のいる人気ルート。まあ必要あるまいと外してきた。

登山道のどこを歩いても熊よけの鈴の音がしていた。

林道を歩き、ワサビ平を越えてようやく登山道に入る。川沿いを歩くものの風はない。暑い。

川を渡渉するところでたくさんの人が休憩していた。それを脇目に見て登山道に入ろうとした瞬間、黒い塊が目に入った。その塊は登山道から上斜面にゆっくりと上がっていく。

「あっ!クマ」

立ち止まり、2、3歩下がる。

「振り返らない!」

と相方の注意点が飛ぶ。熊は逃げるものを本能的に追うのだ。

しかし、その熊は私たちのやりとりを全く無視して、さらに斜面を上ろうとしていた。草叢に消えるのを見届けると、私は注意しながら熊の通った登山道を静かに歩き出した。

しかし、それで終わらない。

斜面を上がったはずの熊がまた草叢をガサガサ始める。下で「どこ行った」と登山者が騒ぐ中、熊は再び斜面を下り、登山道を横切って今度は下に行った。

どうやら熊はまだ子どもらしく、人間を恐れている様子もない。登山者などお構いなしに好きなところを歩いている。

ワサビ平のキャンプ場に「小熊が出たためしばらく閉鎖します」という表記があった。もしかしたら正体はこの熊だったかもしれない。

とりあえず、熊は下へと逃げたので私たちは先に進むことにした。

鏡平に着き、鏡池の前で休憩。ここからは本来槍ヶ岳が見える。この日は雲に覆われていてダメかと思っていたら、雲が一瞬晴れ、天空の城のように槍ヶ岳が姿を現した。

その場にいたのは私たちだけ。「おおっ!」と声を上げる。

そのうち、何人か後続が着くと今度は足元を見て騒ぎ始めた。

何かと思えばオコジョが木の橋げたや石の下をチョコチョコ動き回っている。そのたびにカメラを手にした私たち登山者が追いかける。

小熊とオコジョ。この日は動物祭りらしい。

私たちは大汗をかきながら双六小屋を目指して坂を登った。