クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

ビジネス文書の文体を探る

ここのところ日々、文章を考える仕事をしている。

そう書くと編集者か文筆家みたいだが、そういうわけではない。ただの業務用ビジネス文なので、無味無臭、乾燥冷凍のような文を作っては消しをしている。

面倒なところは語彙に制限があって、少々の難読用語も使わせてもらえない。「コーポレートガバナンス」とか「サステナビリティ」みたいな流行りのカタカナはやたらと登場するのに、前例のない簡単な英語は使えない。

手足を縛って泳ぐようなものでストレスが溜まる。

推敲を続けると自分の癖が出てくる。

「~であるものの」とか「である一方」というフレーズを多用してしまうのだ。ブログでは「~だが」を連発するきらいがあるのだが(ほらね)、「だが」は断定プラス逆説で、なんとなく強い印象なので、こちらを使ってしまう。

ビジネス文書では簡潔明瞭ながら、マイルドな表現が好まれる気がする。

「当社の業績は好調に推移しており、懸念すべき事項には万全の体制をもって臨んでいる」

とは書かない。仮に好調であっても

「当期については~で業績は好調に推移した。今後については~などが懸念され、先行き不透明な状況が続いている。」

とか書いてしまう。

先のことなんかわからんだろ!とハリセンでどつきたくなるが、保守的なのか謙虚なのかわからない文体で濁してしまう。濁すのに、マイルドな文章を書けと注文されるのだから、毎度悩んでしまうのだ。

業績などの事実を書くのはまだいい。

もっと困るのはトップメッセージとか、経営者の代筆である。ああいう文章は本人の言いそうなことを書くのではない。あくまで組織の方針を書くので、過去の文や資料からフレーズを取り出してくる。

あり合わせのフレーズを組合せて作り続けると、順列組合せの限界で、立ち行かなくなる。そこで「強化する」なら「強靭化する」にしようか「強固なものにする」にしようかとか、変形を試みる。たいてい変形すればするほど悪化する。

考えているうちに話し言葉で「強固なものとします」などと言わないことに気づき、冒頭から見直すとそんな言葉のオンパレードで嫌気が差してしまって書き直したくなってしまう。

 

日本語は難しい。

かつては口語と文語が分離していたので、文書は文語で書けばよかった。歴史的には言文一致の方が短いのだから、口語でカチコチの文体を書き連ねるのは無理があるのではないか。そうだそうだ、私のせいじゃない。

そんな言い訳をしつつ今日も頭を悩ませている。