山での一日は朝がいい。
冬は寒くて寝袋から出るのがやや憂鬱なのだが、それでも風の音しかしない世界は下界でなかなか味わえない。夏はそもそも涼しいので起きるのが苦にならない。
甲斐駒ヶ岳山行2日目は午前2時半に起床。草木も眠る丑三つ時である。
コーヒーを沸かし、アルファ米を腹に詰めて3時過ぎに出発。日の出は4時45分予定なので、頂上で見てから下りて来る予定なのだ。
まだ3時だと真っ暗なのでヘッドライトで照らしながら歩く。
八合目にご来光場というところがあって、展望があるのだが、明るさが足りず、カメラが起動しないのでパス。4時くらいになるとようやく東の空が明るくなってきた。
ここの登りは毎回思うのが、「こんな鎖あったかな」とか「こんな岩場あったかな」とかで、もう6回目なのに全然覚えていないのだ。
6回のうち4回は冬で、真っ暗な上にたいていが雪に覆われているので、どこをどう登ったかわからない。ジタバタしているうちに東の空がどんどん明るくなってくる。
4時半に頂上へ到着。
着くや先にいたおじさんから「間に合ったね」と言われた。
そして日の出。
太陽が大きく見える。もちろん錯覚なのだが太陽の力みたいなものを感じる。
日の出前はしばらくじっとしているだけで寒くなっていて、女性なんかは「ううっ、寒い」と震えていたのだが、この日もうだるような暑さになるのだろう。
太陽の恩恵を受け、太陽に感謝し、太陽を恨む。何とも皮肉な存在なのだ。
そんなことお構いなしに日は昇り、灌木の中のアブやハエは繚乱し始めていた。
(つづく)