クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

ジャンクフード

アメリカ・西部。赤茶けた乾いた大地に伸びる道を一台の乗用車が走っていた。あたりはモニュメントバレーに代表される景勝地であり、西部劇の舞台となるような砂漠である。乗用車はセダンタイプのレンタカーで、運転席には父親、助手席には母親、後部座席には6歳と4歳の兄妹が乗っていた。ドライブが始まるや否や赤銅色の岩山に父親は興奮して、後部座席の子どもらに話しかけていたが、少年はすぐに興味を失い、買ってもらったばかりのポケットゲームに熱中し始めた。

「岩ばっかりや」

しばらく手元のバットマンの動きに夢中になっていた少年だが、ゲームにもいい加減飽き、ふと顔を上げた。前には赤土を削るように伸びる舗装道路、後ろにも全く同じ景色が広がっている。ここで自動車が故障したら、またはぼくを置き忘れてみんな車でどこかに行ってしまったら...。ここにはスーパーはおろか自動販売機もない。どこまで歩けば水や食料にたどり着けるだろうか。少年は急にこの潤いのない褐色の大地が恐ろしくなった。

しばらくすると、少年の目が道のはるか先にある人工物を捉えた。建物は砂漠に似合わないお洒落な三角屋根の洋館だったがなぜか表にはポールが立っていた。乗用車は快調に飛ばし、洋館の姿は徐々に大きくなっていった。

少年は息をのんだ。荒野の真ん中に立つマグドナルドの店舗だった。

 

これは私が6歳の時にアメリカ西部に行った時の話だ。アメリカという国は日本と比べるとはるかに歴史がない。逆にそれが自由な発想や雰囲気に繋がるのだが、それに対して食べ物については柔軟性がない。日本なら砂漠でも「サボテンバーガー」あたりを作りそうだが、アメリカではニューヨークもデスバレーも全く同じものを提供していて、客もいつもの味に親しんでいる。私がアメリカで最も美味しかったものはというと、バーガーとピザであり、"Teenage Mutant Ninja Turtles"に登場する亀忍者たちの好物はピザである。

アメリカ滞在中のわずかな期間で記憶されている食べ物は、ハンバーガーとピザとスープだけだ。アメリカでの誕生会はマクドナルドでの貸切パーティーで、もちろんメインディッシュはハンバーガー。ラスベガスでお腹いっぱい食べたのはピザ。父親の英語教師の家でいただいたのはスープだった。美味しかったが、感動を呼ぶほどではなかった。

 

思うにヨーロッパの最も食べ物に興味のない連中が、大航海時代アメリカ大陸に渡ったのだろう。映画「駅馬車」を見ても酒をあおるばかりでジョン・ウェインがうまそうに料理を平らげるシーンはない。ある意味でハンバーガーやピザと言うアメリカン・ジャンクフードは国民性を表すものと言える。

 日本のジャンクフードはというと、牛丼・ラーメンとなるだろう。

牛丼はすき焼きをご飯に載せたのものであり、すき焼きは牛鍋がルーツだ。そう考えると大変な贅沢品がジャンクフードと言われているわけで、日本人の食へのこだわりの一端が見える。

ラーメンは一説に水戸黄門で有名な徳川光圀が食べたという話もあるが、ジャンクフードとして普及したのは戦後だ。

私はあまり詳しくはないし、旅行に行けばラーメンより山菜や魚介類を食べたい。それでも食べた記憶にあるのは札幌・尾道・白河・博多・熊本・鹿児島・飛騨くらいか。みんなそれなりに美味い。それなりというところがミソで、絶対的な美味さはないのだがそれぞれ個性があるのがジャパニーズ・ジャンクフードの凄さだ。アメリカのように大都市も砂漠も同じ味ということがないし、それでいて不味いラーメンといのはなかなかお目にかからない。

 

ここからさらに世界のジャンクフード事情を書き連ねれば面白いのだが、海外経験に乏しいのでこれ以上書くことはできない。ドイツへよく行っていた父に訊いても「ソーセージとビールは美味い」という行かなくても言えるようなコメントしか返ってこないのでどうしようもない。私も海外経験はアメリカとカナダくらいしかなくて、友達もイギリス・アメリカ・カナダに行った人しかいないので何とも言えない。

少ない情報で勝手に判断するが、ジャンクフードはその国の最大公約数なので、ジャンクフードの美味い国は食べ物全般が美味しい。石田ゆうすけさんによるタコスなどが美味しいメキシコやタイなどのピリ辛よりマイルドな味のベトナムがいいそうだ。

海外に行ったらまずはジャンクフードを食べてみることだ。それで美味しければその国の味覚レベルは高い。高くて美味しいのは当然のことなのだから。