クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

おうちのごはん

久しぶりに妹のところへ行っていろいろ話した。

彼女の夫くんは化学者である。化学者というのは「いい加減」なことをできないらしい。「いい加減」にもいろいろあって、数学者なら論理的矛盾を嫌うとか、経理人間は数字が合わないと嫌とかあるが、化学者は分量や時間の計測に異常にこだわるようだ。

普段からこだわりを見せていると日常生活に差し支えるのだが、もちろんそんなことはない。しかし、料理だけは上手くできないという。

彼は料理は普段していないので、実施する場合は万全を期して料理本やネット情報を頼りにする。ところが、レシピは「塩・胡椒少々」とか「少し火が通ったら」などと曖昧用語が連発で、化学者として「少々とは何グラム」なのだというツッコミを入れてしまって料理にならないらしい。その辺、私は料理向きの性格に生まれたことを大いに感謝するところである。家には計量器もないし、あるにはあるが計量スプーンも使ったことがない。全てが感性の赴くままだ。料理は化学的より文学的な気がする。

別に上手でもないし威張るほどではないのだが、今回は私の得意料理を勝手に弁じたててみたい。ちなみに、私は料理本すらあまり見ないので、調理法に問題があるかもしれない。さらに分量は「全て適量」ということで予めお断りしておく。

 

1.しめ鯖

これは料理と言っていいものかわからないが、一般に家庭で作ることが少ないので挙げてみた。

近所のスーパーの鮮魚コーナーがわりと充実していて、珍しい魚があるとつい手が出る。鮪や鯨のようなものより地物の近海魚。中でも鰤や鯖が一匹で売っているのが嬉しい。

もちろん家で捌くのは面倒ではあるが、どんなに大きくても三枚下ろしの方法は変わらない。鯛のような魚は少し敬遠したい。一度黒鯛を買って家で捌いたら、鱗が飛び散って流しの掃除が大変になった。鱗が透明なので、掃除したつもりでもあちこちに残るのだ。

40cmくらいの鯖くらいがちょうどよい。

 

家に持ち帰ると、早速捌きにかかる。

俎板に載せ、頭を落とし、腹を裂き、ワタを取り出す。ワタを手でさらうのが気持ち悪いという人も多いだろう。コツも何もなく気合である。そして三枚に下ろす。鯖は骨が固いので、包丁は良く研いでから作業にかかる。

捌き終わった身は水で血を流し、キッチンペーパーなどで水気を切って、毛抜きみたいなもので骨を抜く。ただ面倒くさいので私は適当にすることが多い。

切り身が完成したらいよいよ酢で締めるわけだが、最初は酢で皮の部分だけ浸ける。酢は米酢がまろやかでよい。穀物酢は酸味が強すぎて魚の味を損ねる。10分か15分すると表皮とそこに接する肉が少し白く変色する。そうなったら手で表皮をはがすことができる。表皮は透明な薄皮で、きれいにはがせると気持ちいい。時々腹回りで失敗すると一番脂の乗った部分が皮に引っ付いてしまって残念な思いをする。

皮をはがすと、最後に身を昆布ではさみ、酢・砂糖・酒を混ぜた液に浸す。タッパーが便利だ。数日経つと食べごろとなる。

 

エラそうに書き綴ってみたが、今まで6回ほどやって美味かったのは2回しかない。鯖の新鮮度と時季によって味が変わる。

なお、頭と骨は塩で潮汁などにするのが鯖への供養となるだろう。

 

2.お好み焼

最近お好み焼きを作っていない。少年時代は好物の代表だったが、基礎代謝が減少し、食欲が以前ほどなくなたせいか、粉モノだけで特に夕食を賄うことが少なくなった。それでも時々は食べたくなるのだが、特に関東では外食のお好み焼きがあまり美味く感じない。


一度、戸塚あたりでお好み焼きともんじゃ焼きの店に行ったことがある。座敷で鉄板を見たときは久しぶりにわくわくした。お好み焼きの良いところは目の前で完成することだろう。次第に立ち上る湯気を嗅ぎ、色づく肉や黄金色に変わる生地を見ているだけで楽しくなってくる。

この戸塚の店でセルフで焼くこともできたが、プロに任せようということになった。お店のお兄さんはボールに入った小麦粉・キャベツの生地と豚肉をおもむろに混ぜて鉄板に載せて焼き始めた。

「・・・・」

一緒に行った先輩と私は少し唖然とした。2人とも関西出身で、お好み焼きは最初に豚肉を炒め、色が変わったら生地を投入するものと思っていたからだ。生地に混ぜた状態で火を通した豚肉は案の定、蒸し焼き状態になり、香ばしさが全くなかった。ちなみに、もんじゃも初めて食べたが、何が美味いのかわからなかった。関東の焼き物、粉モノは子供だましだというのが印象だ。

 

さて、私のお好み焼きの作り方も正統かどうかはわからない。ただ、何となく作っているだけだが紹介しよう。

薄力粉に水、卵、山芋のすりおろしを入れて混ぜる。昔、やしきたかじんが「ホンマに美味いお好み焼き屋は山芋を入れへん」と主張していたが、山芋を入れるとふわふわに焼きあがる。さらに隠し味に天かす、粉末だしを入れ、千切りキャベツをかき混ぜる。これで生地は完成。

焼きは、鉄のフライパンなど熱伝導の良いものを使う。ホットプレートでやってもいいが、火力が強いものの方が美味しく焼きあがる。

最初に豚肉を投入し、胡椒を振って軽く焼き色を付ける。そして肉の上から生地をかぶせる。表面が軽く焼けたら蓋をして生地の中まで火を通す。火が生地の上部をおおよそ固めるくらいまでになったら、蓋を取ってフライ返し2つでひっくり返す。大阪の店では「これでけへんかったら嫁行かれへんで」という脅し文句を言われることがある。

両面が黄金色に焼けたら完成である。仕上げに醤油を少し垂らすのもよい。ソース・マヨネーズ・鰹節をかけて食べる。

 

広島にいた時は広島風お好み焼きをよく食べた。広島ではラーメン屋よりお好み焼き屋が多く、1年間に潰れる店と開店する店が同じくらいあるらしい。中古市場にはお好み焼き屋の鉄板が常に出回っているので簡単に開店できるようだ。

関西風が完全に家庭の味として定着している一方で広島風は店で食べるものだ。麺を茹で、生地と薄焼き卵を焼き、キャベツと麺をサンドするのは1つのフライパンだけでは不可能。関西人としてはややこしい料理と言える。

私は麺は塩ガーリックで味付たものが好み。麺にソースをからめて焼きそばのようにする店が多いが、卵の表面にもソースを塗るので味に変化がなくなってしまう。麺は薄味の香ばしいものが良い。

 

3.豚の角煮

Googleで「得意料理」と検索すると、女子が男子に作ると「ウケる」料理が列を連ねる。肉じゃが、ハンバーグ、生姜焼き、オムライスなんかが出ている。要するに男の好きな料理は子供時代から変わらないのがよくわかる。肉じゃがを除けばそのあたりの定食屋で食べることが可能だ。

これらの料理の特長は味の失敗が少ないことだろうか。分量さえ間違えなければ、そして形さえこだわらなければなんとかなる。こんなことを書くと頑張っている女子の反発を生みそうだ。男子は女子から作ってもらえれば何でも喜ぶと思いますよ、ということでお茶を濁しておく。

 

私が適当にやってもまずまず失敗しないのは豚の角煮。先に挙げたしめ鯖なんかは結構失敗した。最後は失敗しにくい得意料理を紹介したい。

豚の角煮は豚バラのブロックを買い、適当な大きさに切り、お湯で茹でる。美味く作るのは茹で時間。コツも何もない。

この時、生姜を入れると臭みが消える。バラは脂が美味しいのだが、同時に臭い部分でもある。時々掬い取りながらひたすら茹でる。

火が通ったら醤油・砂糖・酒を入れて弱火で煮込む。そして適当なところで一度火を止める。冷める時に味が染みるのと、ガスを消費し続けるとガスメーターがガス漏洩として遮断することがあるのだ。また適当なところで火をつけてを繰り返し、煮詰まるまで続ける。

全てが適当なのが特徴だ。煮詰まるまでに味見をしてバランスを保てば何とかなる。

 

こんな文章を書いて何かをアピールするつもりもない。

ただ、来年には消費税の10%増税が予定されており、その中で家で食べるご飯は8%に据え置かれる。制度設計者は「食品だけは増税するのは非人道的だ。ただし外食は贅沢だからダメね」と考えたのだろう。この時点で、「家に帰ればご飯を作って待っている人がいるのが当たり前」という昭和前半生まれの人が考えそうなことだと思う。今は単身世帯が大半だというのに。

なんだか納得いかない軽減税率制度なのだが、私は自炊派なので影響はない(酒類は軽減の対象ではないので影響を受けるが)。

今日はおうちに帰って自分で美味しいご飯を作ろう。