クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

北海道自転車放浪記-2

北海道へは舞鶴から小樽へフェリーで渡った。しかし、まずは自宅から京都に住むバイクの同級生の下宿に寄って一泊。翌日舞鶴に向かい深夜発のフェリーに乗る。何事もなければここらの記載は飛ばすつもりだったが、実は舞鶴までの道が一番困難だった。

出発2日前に私は風邪をひいて布団でうなっていた。ひどく暑い夏で、冷房で体調を崩したに違いなかった。よれよれで出発前日に荷物を詰め込んだが、頭が働かず早々に終わらせた。その後いろいろな忘れ物が見つかることになる。

 

翌日、灼熱の京都へ出発。道路沿いの温度計は43度と示していた。京都の北にある同級生の下宿に着くとすぐに倒れこんで寝てしまった。

翌日もよれよれで出発。『ツーリングマップル』で舞鶴まで直線距離で行ける道を選んだ。『ツーリングマップル』はバイクツーリング用の地図だ。自動車に乗せる大型本ではなく、A5サイズの地図帳で自転車ツーリストも使っている人が多い。道路だけでなく美味しい店や景色の良い道も掲載されていて、見ているだけで楽しい。ただ、この地図は自転車族からすると大いなる欠点があって、道の傾斜はあまり考慮されていない。バイク乗りにはただ静かな良い道でも、自転車では辛いという道も多い。

京都市街を出た私は鞍馬・貴船方面へ進んだ。朝の涼しいうちに距離を稼ぎたい。貴船に近づくと緑が多くなった。頭上を覆う緑の笠と川沿いを抜ける風が気持ち良く、川の上に縁台が見える。さすがは京都の避暑地という風情で、朝から観光客が多い。

ちょっとして京都観光の気分を味わうと、そこから急坂が始まった。鞍馬や貴船は古来天狗が住むようなエリアだ。自転車に乗ることもできず、汗を滴らせながら進む。正直、この時は北海道どころか舞鶴までたどり着けるかが問題だった。3L以上あった水はみるみるうちになくなった。風邪と京都の灼熱地獄でもうよれよれだ。

仕方がないので横を流れる川の水を汲んで飲む。どのくらい綺麗かわからないが、その水は清冽で何よりの栄養補給になった。一息つくと再び重い自転車を押し始めた。

 

慌てて準備した装備はかなり膨大なものとなっていた。

サイドバッグ4個にテント、寝袋*1、登山用コンロ、鍋、雨具、ヘッドライト、米、2Lポリタンク、着替え、レインカバーなどを入れ、800mlアルミボトルと500mlペットボトルを自転車のフレームに付ける。さらに欲張って登山も計画していたので、20Lザックを後部キャリアの上に載せ、靴はレザーのトレッキングシューズにした。

今なら45Lのザック1つにまとまめることも可能だが、当時はパッキングの能力が乏しく、代わりに体力はあった。総重量は40kgくらいはあったと思う。なぜこんなことになったか。おそらく北海道に対する過剰な警戒心があったからだろう。何百キロも続く無人の荒野みたいなイメージを抱いていて、そこで立ち往生したらのたれ死んでしまうのではないかと、半ば本気で考えていた。

小心な冒険家は自ら用意した重荷で押しつぶされそうになり、北海道より前に北海道行きのフェリー乗り場にたどり着くことが問題となっていた。

 

日暮れ時に舞鶴港に着いた。空腹だった私は途中のマクドナルドでハンバーガーを単品で3つ買い、港で貪った。さすがに3つめには飽きてしまった。

たかがフェリーに乗るだけで大仕事だ。これからどんな困難が訪れるだろうか。私は、バイクで楽々と着た友人の脇で、心細くそれでいてヒロイックな気分に駆られていた。

*1:寝袋は札幌で購入した