クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

北海道自転車放浪記-6

いよいよ知床に来た。

知床半島は北海道の角のように北東へ張り出しているが、その付け根から付け根へ知床縦断道路が走っている。西の付け根は斜里で、東の付け根は羅臼である。

私は夕べバーベキューをごちそうしてくれたお兄さん方に礼を言って別れを告げ、知床五湖へ向かった。知床半島の西側の付け根から少し北上すると知床五湖がある。知床五湖に向かう道に入るとどこからともなく大型観光バスが現れ、この日本の僻地に渋滞が発生していた。自転車はこのあたりは楽だ。駐車場待ちをしている車をすり抜け、湖に向かった。

当初、北海道旅行を企画した時、知床を最終目的地にしていた。自転車で「日本最北の秘境」に向かう。そんな漠然としたイメージで北へひた走ったわけだが、知床五湖は一大観光地だった。知床はヒグマの一大生息地であり、ビジターセンターではクマよけのカウベルが売られていたが、もはや観光客だらけ、クマ鈴だらけであちこちからカランコロンが聞こえてきて、これではクマも寄り付かんわという状態だった。

森の中から羅臼岳を見上げることができる。陽が差してきたの緑が映える。知床の美しさはわかったが、木道から眺める景色はちょっと作りの凝った博物館のようなバーチャルな印象だった。

 

知床五湖からは一度戻って知床縦断道路を通り、知床峠を越えて羅臼に下りる。縦断道路はつづら折りの坂が続き、大量装備の自転車にはきつい登りとなった。後ろから自動車やバイクがシュンシュンと抜かしていく。

ヒーヒー言っていると、1台のバイクが通り過ぎ、20mくらい先で止まった。「誰だ?」と思ったら、一緒に北海道へ来た同級生である。「おー!」とこちらはテンションが上がるが、彼は冷ややかに「大変そうだねー」などと言う。しばし、それぞれの行程を話すと彼は「じゃあ、もう会わないと思うけど」と言って笑顔で去って行った。

やれやれ、自転車はひたすら孤独なのだ。

自転車の走行距離には個人差がある。私の場合は1日100kmくらい。1日80kmの人と比べると5日で100kmの差が出てしまう。1日の中でのスピードのリズムもそれぞれ違う。結局距離の自転車ツーリングは1人が良い。

 

知床峠までの長い登りを抜けると空は曇ってきた。折角のピークなのにガスで遠くは全く見えない。

ようやくたどり着いたという気分だったが、誰にも話しかけられない。峠にある駐車場では大学のサークルらしき自転車集団がいるが、団体で来ている連中には話しかけづらい。自転車は1人がいいと言いつつも寂しいものがある。

早々に峠から坂を下る。荷物が重いので慎重にハンドルを操作するが、メーターは時速40kmを示している。慣れてくると楽しくなってきて鼻歌も出始める。ふと前を見上げるとカーブの先にバイクを見つけた。バイクは止まっている。バイクの後部には赤いものが括り付けてあった。

バイクに近づいてみるとミラーは折れ、クラッチレバーが外れかかっている。一目走行不能のようだ。後部の赤いものは寝袋だった。そしてそれは私が同級生のライダーに貸したものだった。バイクはワイヤーでできたガードレールに立てかけているようだ。もしかしてこの崖から落ちたのかと思い、崖下を覗き込んでみたが下は深い森が広がっているばかりだった。携帯の電波は通じない。私はバイクをそのままにしてモヤモヤを残したまま坂を下った。

 

羅臼の国営キャンプ場はキャンパーにとっては最高の場所だと言える。景色こそないが、森の中で敷地は広々しており、近くには温泉もある。

キャンプ場でバイクの同級生に電話を掛けた。

「あれ、バレた!?」

と彼は言った。何のことはない。下りでコケて走行不能になったのだった。大して怪我もせず、通りがかりの車に乗せてもらい、電波の通じるところまで移動したらしい。

レッドバロンに連絡して修理してもらうことになったよ~」

にこやかに答えられると、崖から落ちたかと心配した自分が大げさだったのかとも思う。ただ、過去に教習所で足を折った「前科」があるだけに万が一を考えてしまうのは無理もない話。

キャンプ場の喧騒を聞きながらモヤモヤはさらに心の中で取れないシミのように広がるのだった。

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