クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

北海道自転車放浪記-3

船は真っ暗闇の北海道に着いた。

前日の23:57に舞鶴港を出港して23時間、23:00に小樽港に着いた。船から吐き出された自動車やバイク・自転車はたちまち方々へ散って行った。道沿いに見かけた牛丼屋で同級生と2人で飯を食い、24時間営業のスーパー銭湯で風呂に入り、休憩スペースで雑魚寝。もうかなり遅い時間なのに酒を飲んで騒いでいる連中がいて、ようやく眠りについたのは3時だった。

翌朝、ぼんやりとした中「鱗友食堂」という店に向かった。せっかく小樽に来たのだから海鮮丼でも食べようということになったのだ。一緒に来た同級生はこの北海道ツーリングはむしろ食べ歩きと言っていい。バイクで走って食べるのだから「食べ走り」か。彼はサンマの刺身を載せたサンマ丼、私は鮭の親子丼にした。

腹ごしらえをすると彼とは別れて札幌を目指す。夕方に札幌の少し北、岩見沢の先にあるライダーハウスで再会の予定だ。

 

その日はひたすら自転車を漕ぐだけだった。

小樽と札幌間にさほど面白い光景はない。多少の起伏とやや蛇行した石狩川があるだけだ。交通量が本州と同じくらい激しいというのもある。淡々と漕いで札幌に着き、アウトドアショップであらかじめ注文していた寝袋を受け取ると再び北上した。北海道に来てまで都会に居続けたいと思わなかった。

札幌から旭川方面に自転車を走らせる。札幌からは北海道らしいまっすぐな道に変わった。自転車はとてつもない重さだが、一度スピードが付くと普段と変わらない。空は曇天で車の交通量は意外と多い。札幌の北は日本一長い直線道路で非常に単調。見晴らしもさほど良くない。

なかなか高ぶらない自分の心に対して「お~い、お前は今北海道を走っているんだぞ~!」と呼びかけてみた。

 

北海道には至る所にライダーハウスと呼ばれる宿がある。バイクや自転車で旅行する人向けの安宿で、寝袋などを持って行けば500円とか1000円で泊まることができる。

この日泊まったのは公民館のようなライダーハウスで、コインシャワーが併設されていた。シャワーを浴びて出ると、宿泊所の玄関にある囲炉裏でおじさんがトウモロコシを焼いていた。「食え!」と言われたのでありがたく頂戴する。自然に囲炉裏を囲むライダーたちと話を始めた。同年輩と思われる兄ちゃんは来年から大手自動車・バイクメーカーで働くらしい。

「就職を決めた〇〇の前に××自動車も面接行っただけど、そこの面接官が『当社の将来をどのように考えますか?』と訊いてきた」

どうやら私と同い年くらいらしい。

「そこで俺プチっときて『そんなこと今日の判決を聞いてからでしょう!』って言ったった」

これには少し注釈が必要だ。彼が採用面接を受けた××自動車が製造した車両はその直前に死者を出す事故を起こした。当初、車両の整備不良と見られた事故だが、捜査が続く中で車両の耐久性が疑われるようになり、しかもそれは組織ぐるみでのリコール隠しという深い闇を炙り出すことになったのだった。その面接当日は偶然にもその事件の判決の日だったのだ。

それにしても面接官も驚いただろう。型通りの質問に対して正論で思い切り怒られたわけだから。

「面接が終わったら、爽やかに『ありがとうございましたー』って言って帰った」

こういうバイタリティー溢れる人が就活でも成功するのだろう。

その後、彼は他の武勇伝を語りだした。とは言っても武闘派的な武勇伝ではなく色恋関係。彼は年上好きらしい。

「ある合コンで会って付き合いだしたら、ベッドで『私、夫と子どもがいるの』って告白された」

こういうバイタリティー溢れる人が恋愛でも成功あるいは失敗するのだろう。

犬も歩けば棒にあたる。この日、少し賢くなった。