クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

北海道土産には鮭児より「時しらず」

昨年も北海道を利尻・礼文・小樽と回ったが、大した土産を買わなかった。せいぜい自宅用に風鈴を買ったくらいだ。

小樽では駅からほど近い三角市場でいろいろ眺めたものの、丼を食べるにとどまっている。どうも旅先のものを持ち帰りたいという執着がわれわれにはないようだ。

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昨年は眺めるだけで蟹も買わず

しかし、今回は唐突に実家に何か送ろうかという殊勝な気持ちが起きた。特に何があったわけでもない。ただ、なんとなくである。

北海道と言えば「蟹」。旅の最後に釧路の和商市場へ行くと花咲ガニや毛ガニが並んでいる。どれがいいのか皆目見当が付かない。うろうろしていると、一人のオジサンがこっちへ来いとばかりに手招きをする。ふらふらと寄っていくと

「北海道と言えばこれ、『時しらず』。蟹なんかはどこでも同じ」

と突然弁じたててきた。急ぐこともないので「ほー、ほー」と聞く。正直な話、「時しらず」とは何かさっぱりわからない。

鮭児はマスコミが過剰に煽っただけ。あんなの珍しくもないし、どれも小さい」

鮭児はロシア・アムール川産の鮭が日本近海に迷い込んで網走あたりで捕獲されたものである。ただ、小さい個体が多くて味にもバラつきがあり、「幻の魚」と言ってマスコミが煽りすぎたために法外な金額が付いているとのこと。それに対して時しらずは時期外れに戻って来ようとしてしまった鮭で、生殖にエネルギーを使っておらず、身に脂が乗り切っているらしい。

オジサンの熱弁を聞きつつ時しらずを見ると、立派な身が並んでいる。もっともどれがいいのかわからないのだが、切り身で「極上」と「特上」と「高級」と名無しが並んでいて

「まず味わうなら特上以上。極上は脂がサラサラしていて後に残らない。ウチは鮭とイクラだけで30年も商売している」

とさらにさらに熱いトークが続く。向かいの蟹専門店には迷惑な話だが、熱いトークに押されて「それじゃあ極上を」と言ってしまった。

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北海道と言えば「時しらず」らしい

最初は両親にという殊勝な思いから始まった土産物探しだが、自分も食べたくなったので相方の実家に送ることにした。8月の終わりに法事があり、その時期に合わせて送ればご相判にあずかれるという魂胆である。

そして食べた時しらず。確かにしつこくない脂で酒よりご飯が進む。とにかくあのオジサンは正しかったということにしたい。