クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

兵用ゆべし 酒飲むべし

もう4ヶ月以上も山に行っていない。休日はランニング、しかも時折雨に濡れての快適とは言いかねるランをして来るべき山行に備えている。自然、愉しみは食ということになる。夜の外食も気が引けるので少し美味い肴を用意して、酒を嗜むくらいしかないのだ。

 

山での酒については以前に少し書いた。

yachanman.hatenablog.com

 山というシチュエーションで飲むのは最高なので、カップの中身はあまりこだわらないが、家で少し楽しみたい時はちょっと美味しいものにしたい。ただ、単に高い酒を飲むのでは能がない。「高い酒」は「高い山」と同じで、客観的な評価を受けているものの、「ここぞ」というものはどうせなら自分で見つけたいものだ。

その意味では日本酒は銘柄豊富、味も多様なので、「ここぞ」を探すのにはちょうどよいのかもしれない。

今回は通を気取って好きな日本酒をレポしてみたい。

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1.七賢

「好きな山は?」と訊かれれば「甲斐駒ヶ岳」と答える。その甲斐駒ヶ岳山梨県北杜市に位置しており、「南アルプスの天然水」で有名な通り水の美味しい地域で、私は甲斐駒ヶ岳から下山すると、道の駅はくしゅうの水汲み場で休憩することにしている。

その道の駅からすぐのところに七賢の醸造所があり、以前から気になっていた。冬の場合は荷物が重いので、醸造所に寄ることもなく帰っていたら、先日近くの安売りスーパーで七賢が売られていることに気が付いた。720mlで700円代。

あまり期待せずに買ってみた。

 

牛スジ煮込みと一緒に飲む。

やや辛口ながら、ふくよかな味わいが広がる。

「むむっ!やるではないか」

 酒は米どころに限るというのが、新潟出身の先輩の言。それでいくと山梨は耕作地がやや少ないエリアではある。ただ、これは意外なほどまろやかであり、甘すぎることもない。

 米の味もさることながら、水の良いところにこそ美味い酒が育つのだろうか。

 

2.女城主

日本酒は銘柄が面白い。

八海山、妙高山立山などの山名を付したもの。鍋島、雑賀(写真に写っている銘柄)などの地名を付けたもの。景虎(後の上杉謙信)、酔鯨山内容堂の号)など人名を冠したもの。

醸造所の沿革や味と関係なくても名称に惹かれて飲みたくなることがある。

 

女城主は岐阜県恵那市の酒である。

織田信長武田信玄が天下の覇権を争う時代、恵那の岩村城にいた女城主・おつやが銘柄の由来となっている。おつやは信長の叔母にあたり、岩村城の城主だった夫・遠山景任に代わって領地を治めたという。

その後、武田方の武将・秋田虎繁(信友)に降伏、妻となるものの、今度は信長の反攻にあって、虎繁もろとも磔になるという悲劇的最期を遂げるという人生となった。

日本史の中ではわりとマイナーなところだが、井伊直虎のように大河ドラマにでもなれば、人気になるかもしれない。

 

さて、酒は女城主と銘打つだけあって普通の清酒ではなく濁り酒である。友人は一升を買って、親父殿と2人、一晩で開ける言っていた。

味は濁り酒らしい甘みがあるものの、甘すぎないという具合で、確かに私も飲み過ぎて二日酔いになった。

戦国の世は甘くはないようだ。

 

3.厳島

日本三大酒どころというものがある。曰く、灘、伏見、西条だという。

私は関西出身なのに灘、伏見にあまり馴染みがない。先日、灘の代表として剣菱を飲んだが、相方が「お神酒みたい」と評したように、私たちの舌には合わないようだ。

 

私がまともに飲んだのは西条。

西条と言ってもピンと来ない方もいると思うが、広島県東部の山あいにある町で、賀茂鶴なんかが醸造所として有名である。

私が広島にいた時、時折西条に行っていた。しかし、もちろん仕事で行くのであって、酒を買うわけではない。酒どころだと知ったのは広島時代も最終盤である。

お世話になった取引先の社長が広島を去る前に送別会にと鉄板焼き屋に連れて行ってくれた。そこで飲んだのは賀茂鶴大吟醸・720ml一本開けて記憶がなくなったことがある(日本酒に行くまでもビールを3杯くらいは飲んでいた)。それでも「美味かった(?)」と記憶しているのだから、本当に美味かったのだろう。

銘柄は正確に覚えていない。双鶴だっただろうか。

 

「美味い!美味い!」と言っていたら、社長は「一本包んでやれい!」と言って厳島という吟醸酒を手土産にもらった。こちらは記憶が定かなところで飲んだので覚えている。

厳島と言えばこの社長には厳島まで自家用ボートで連れて行ってもらった。

「金用ゆべし!」である。

 

4.春鹿

いくつか紹介したが、今のところのNo. 1である。これは奈良の酒である。ならまち近くの今西書院というところで直売されている。

奈良というところはどうもPRが下手なのか、そこが味なのか、とにかく京都より地味な古都と見られる。しかし、寺院仏閣は京都より古の息吹きを感じるし、何より東大寺の二月堂より高い建物がないのがいい。

これは主題と関係ないようだが、春鹿の地味そうで深みのある味につながるような気がする。

 

個人的には純米吟醸が好きだ。

甘すぎず、ほんのり深みがある。派手さはないけど、料理の味を崩さない。上手い表現ができないのが残念だ。

奈良は海なし県なので、新鮮な魚介類は望めない。しかし、この酒は肉より魚に合う気がする。奈良の名物の中でも押し寿司・柿の葉寿司あたりがよいだろう。押し寿司が苦手なら奈良漬けでもよい。

ほんのり甘い酢飯を邪魔せず、かと言って喉の焼けるような辛さはない上品な味わいなのだ。

 

 「兵用ゆべし 酒飲むべし」は頼山陽の言葉で、未だ灘の剣菱のキャッチコピーとなっている。

山屋なら「山登るべし 酒飲むべし」となるし、沢屋なら「沢登るべし…」、カヌー屋なら「川下るべし…」となる。

早いところ、コロナ騒動が収束して、屋外で身体を動かしてから酒を嗜みたい。

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写真は江戸たてもの園の居酒屋。