クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

硫黄山からの知床縦走①〜北海道を巡る冒険

 北海道の登山旅。とりあえず大雪山から下山し、北見、網走に滞在したわれわれは観光しつつ悪天候をやり過ごし知床に向かった。

知床は憧憬の地である。大学時代、自転車で小樽から知床を目指した。ちょうど世界遺産になったばかりの知床はごった返していて、知床五湖はヒグマも近寄れないくらいガランガランと熊鈴が鳴っていた。当時も知床に行って羅臼岳に登るということに憧れていたが、天気も悪く断念した。いやそもそも実力不足で登れなかったかもしれない。

以来、憧憬の知床・羅臼岳となっている。

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カムイワッカまでのバス

今回は知床五湖からさらに奥、硫黄山登山口を目指してカムイワッカの湯の滝までのバスに乗った。宇土呂から知床五湖を経由し、バスで行ける最奥がカムイワッカ湯の滝で、温泉の流れる滝がある。

気になるのはバスの音声アナウンスで

カムイワッカ湯の滝から先、硫黄山登山口へは行けません」

と言う。前日に知床世界遺産センターで訊いたところ、シャトルバスは出ているし、現地で申請書を書けば登山口まで行けるとのこと。よくわからないが、バスに乗った以上は行けるところまで行くしかない。

バスを降り林道を進むと、カムイワッカの一の滝が見えてくる。湯加減は上流にある四の滝が良いそうだが、今は登れないそうだ。

その滝の先にゲートがあり、いかにも「行けません」という感じだったが、ゲート前に箱に入った道路利用申請書という紙が置いてあった。どうもこれを書いて、自己責任で道路を通行せよということらしい。建前上は通行禁止だが、申請して自己責任に限り認めるというややこしいやり方を取っているらしい。

ゲートの脇から入ると、下手な国道よりはるかにきれいな道が続いていた。

 

さて、カムイワッカの滝から徒歩数分。硫黄山登山口からいよいよ山に入る。

いつもと違うのは鈴を着けていること。知床五湖ではバカにしていた熊鈴だが、ここでは生命にかかわる。殊に吉村昭羆嵐』なんか読んだ日には常にヒグマの幻影に惑わされることなるだろう。

登山口を入ったわれわれは途中なんてことのないところで藪に入ってしまい、そこで熊の糞と対面してしまい、さらに藪から脱出するのに余計な時間を使ってしまった。

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黄山への登山道は基本的に整備されている。一応、山と高原地図でも実線になっているし、あまり迷うことはないだろう(最初に迷ったのはわれわれが焦りすぎたから)。

ただ、火山ガスが噴出する砂礫地帯を抜け、道が涸沢に入ったあたりから状況が一変する。とにかく藪で荷物がひっかかるし、沢は沢登りの遡行のようにわかりにくい。

今回、利便性を重視してエアマットではなくウレタンマットをバックパックに括り付けていたのだが、それが藪に引っかかって体力を消耗する。さらに沢はどこに巻き道があるのか常に注視しなくてはいけない。私は登れても相方が登れない可能性がある。 

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神経を使いながら沢を詰めていると途中でキタキツネに出会った。さらに頂上下まで行くとようやく2人の登山者に出会う。そのうちの若い日本人男性が

「熊見ませんでしたか?」

と訊いてきた。

「そこの両俣にいましたよ。結構大きかったです」

などと物騒なことを言い出した。怖くなってさらに鈴を鳴らしながら進む。少しするとまた2人降りてきた。

「わー!やっと人に会った!」

と今度は女性2人組。羅臼から日帰りだという。距離を考えると一瞬疑ったが、トレランスタイルの装備と強靭そうな足を見ると本当らしい。

キタキツネ、ヒグマ、ヒト。今日の登山はいつもと違うようである。